「すべて計画通りに進んだ」J1連覇の神戸・吉田孝行監督が示した日本サッカー界へのアンチテーゼ
メンタル牽引したベテラン勢の信念。「戦えない選手は置いていく」
インテンシティーは、特に日本のサッカー界ではプレーの「強さ」や「激しさ」を意味する言葉として浸透してきた。ただ、定義そのものは明確化されているわけではなく、フィジカル面に加えてメンタル面の強さや、ある意味では戦術面のソリッドさも含む場合もある。 そして、メンタル面で神戸を引っ張ってきたのが、30歳を超えるベテラン選手たちだった。その一人である32歳の武藤は、後半アディショナルタイムに起死回生の同点ゴールを決めて、自力優勝の可能性を最終節へつなぎとめた11月30日の柏レイソル戦後に喜びよりも苦言を呈した。 「何度も言ってきたはずなのに、やはり甘さが出ていた。一番大事な試合で、正直、試合にうまく入り切れていない選手がいたし、準備ができてなかった選手、地に足がついていない選手もいた。僕たちは決して仲よしでやっているわけじゃない。一人ひとりがもっと責任をもたなきゃいけないし、全員が責任をもつ連鎖が最後の最後に優勝につながる。厳しい言い方になるかもしれないけど、戦えない選手はもう置いていく、といった気持ちでいかなきゃいけない」 今シーズンのMVPを受賞した武藤が心を鬼にするのは、柏戦後が初めてではない。ヨーロッパでプレーした約6年間をへて、2021年夏に加入した神戸で何度もカミナリを落としてきた。 「最初のころは『こいつ、何を言っているんだ』と思われるくらいに厳しかったと思う。でも、それだけプレッシャーをかけてでも、下の選手たちを成長させようと思ってきた。彼らも僕たちを信じて、ついてきてくれたおかげでいまの強いヴィッセル神戸が生まれた。僕自身も大迫選手、酒井選手、山口(蛍)選手があれだけサッカーに真剣に取り組み、すべてを捧げている姿勢を見て、もっともっとやらなきゃいけないと思ってきた。チームメイトに恵まれたと思っている」
さらなるインテンシティを求め「Jリーグを引っ張る存在に」
1990年度生まれの大迫と酒井、キャプテンのMF山口蛍に2歳年下の武藤。ヨーロッパの厳しい戦いを知るベテラン勢が常に高みを目指す貪欲な背中が、若手や中堅の選手たちにポジティブなメッセージを与えていると目を細める吉田監督は、戦術面に関してこう語っている。 「みなさんには同じように見えるかもしれないけど、攻撃の崩し方にしても相手によって全然違う。シンプルなようですごく奥深いサッカーというか、実は僕、めちゃくちゃ細かいんですよ」 戦術が個を生かすという大前提のもと、ハイプレスの方法やミドルゾーンと自陣での守り方などを試合ごとに細かく分析。そのうえで選手たちに提示するパターンは1試合で30にも及ぶという。 「たとえば相手が途中でやり方を変えてきても、僕のひと言だけで同じ映像がパッと選手たちの頭に浮かぶ状態を追求してきたというか、攻撃面も守備面も言語化できているのが大きい。だからこそ他のチームよりも安定感があるし、それが強さにつながっているのかなと思う」 こう語った吉田監督は、神戸のハイインテンシティー化はまだまだ道の途中だと力を込める。 「プレミアリーグやブンデスリーガなどは正直、いまの神戸が高校生に見えるくらいのレベル。それほどフィジカルが強くてうまい、怪物のような選手たちがものすごく速いゲームを展開する。そこを目指していかないと、日本のサッカーの成長もない。Jリーグのインテンシティーも高くなってきたなかで、僕たちがさらに引っ張る存在になる。これは僕の個人的な意見だけど、若い選手たちが5大リーグ以外のヨーロッパへ中途半端に移籍するよりは、Jリーグでヴィッセル神戸と競争して成長したほうがいい。ウチ以外にもいいチームがたくさんあるので」 優勝決定後に神戸市内のホテルで行われた、祝勝会後に応じた囲み取材で珍しくまくし立てた吉田監督は「長く、熱く語ってしまいました。普段はいっさい話さないんですけど」と苦笑した。自信を膨らませる47歳の指揮官の視線は来シーズンの戦いへ、そのなかでも2007-09シーズンの鹿島アントラーズ以来のリーグ3連覇と、三木谷会長が悲願に掲げるアジア制覇へ向けられている。 <了>
文=藤江直人