「すべて計画通りに進んだ」J1連覇の神戸・吉田孝行監督が示した日本サッカー界へのアンチテーゼ
「一度もぶれなかった」連覇達成を導いた吉田監督の“基準”
絶対的な自信をひもといていけば、J1残留争いを強いられた2022シーズンの後半戦から標榜してきた、インテンシティーの高いサッカーに行き着く。FW大迫勇也の復調に伴い、ボールを奪えばまず前線へロングボールを供給するスタイルに転換した神戸は、最終的には13位で残留した。 迎えた昨シーズン。吉田監督は開幕前のキャンプからハイインテンシティーに磨きをかけた。ケガや夫人の出産立ち会いなどで出遅れた元スペイン代表の司令塔アンドレス・イニエスタが、チーム内に居場所がなくなったと痛感し、昨夏に退団しても指揮官は考え方を絶対に変えなかった。 リーグ戦初優勝を果たした昨年11月。イニエスタ退団を問う質問に吉田監督はこう答えた。 「僕自身、前線からのプレッシングがもともと好きだったし、そこに関しては選手たちも同じ意見だった。アンドレス(・イニエスタ)に限らず、試合出場を望んで新しい場所を求める選手は大勢いる。そのなかでお互いにプロとして、自分は試合に勝つための決断をくだした」 今シーズンも突き詰めるスタイルはまったく変わらない。連覇達成後に指揮官はこう語った。 「周りから何を言われようと、この2年半、僕たちの基準で絶対にJリーグを変えてやるという思いでずっと戦ってきた。今シーズンは(宮代)大聖や(広瀬)陸斗が入って、やりたいサッカーのオプションがさらに増えたけど、目指していくサッカーの基準は僕のなかで一度もぶれなかった。クラブが何を言おうと、僕は僕のサッカーで勝つ。実際に勝っているし、これが正解だと思う」
三木谷会長も納得。タイトルを決定づけた2つのゴールに見る強さ
ここで気になるのが「クラブが何を言おうと」の部分となる。神戸の三木谷浩史会長はイニエスタをはじめ大物外国人選手を次々と獲得し、一時は神戸が目指す路線として「バルサ化」を掲げた。 一方で吉田監督がこの2年半にわたって標榜してきた、インテンシティーの高いサッカーは、手数をかけない縦に速い攻撃一つを取っても「バルサ化」とは対極に位置する。三木谷会長から直々に、あるいは神戸のフロント幹部を介して何らかの介入があったともうかがわせる。 その三木谷会長は昨年の初優勝後に、吉田監督も同席した会見でこう語って同意を求めた。 「ヨーロッパを含めて、サッカーのスタイルというものはいろいろと進化してきている。ある意味でスタイルとは所属している選手で変わってくるものだと思っているし、そのなかでいろいろな意見をぶつけ合って生まれたのがいまのスタイル、ということでいいですよね」 そして連覇を見届けた湘南戦後には、ご満悦の表情を浮かべながらこう語った。 「地力がつきつつあるのかな、と。現代サッカーではインテンシティーがかなり重要になってきているなかで、スタイルというものがだんだんと確立されてきました。いいんじゃないでしょうか」 三木谷会長にいま現在のスタイルを認めさせたといっていい。実際に天皇杯決勝とJ1最終節で、同会長の眼前で中盤を省略したサッカーで貴重なゴールを奪ったのだから無理もない。 起点はいずれも守護神・前川黛也が放ったロングキック。ガンバ大阪との天皇杯決勝は、FW佐々木大樹が相手と競り合ったこぼれ球を大迫が左へ展開。抜け出したMF武藤嘉紀が放ったシュートのこぼれ球を、ゴール前へ詰めたFW宮代が押し込んだ64分の一撃が決勝点になった。 湘南戦では1-0で迎えた43分に、今度は大迫が相手DFと競り合って頭でボールを左前方へ流す。以心伝心で走り込んでいた佐々木が、飛び出してきた相手キーパーの眼前で右側へパス。これが武藤への絶好のアシストとなって、自力で優勝を決められる神戸に決定的な追加点が生まれた。