日本財団HEROsとJリーグがカンファレンスを開催 ~トッテナムが日本で惜しみなく伝えてくれた「サステナビリティ」~
コミュニティのサステナビリティとは
また、カレン氏が説明したトッテナムの「サステナビリティ」で興味深かったのが、「コミュニティのサステナビリティ」という発想と取り組み。世界的な人気を持っていようが、あくまでクラブのアイデンティティは本拠地である北ロンドン。地域社会を大切にしている。その一つが雇用創出だ。 「スタジアムを公民館の様に使用し、大通りに面していて人通りの多い正面玄関でジョブフェアを行っている。雇用のマッチングを行い、(クラブに関わる)全ての利害関係者、ステークホルダーの方々をこの活動に組み込んでいくことで雇用も創出している。雇用機会の創出は、人の人生を一変させることに繋がる」(カレン氏) 北ロンドンのトッテナムエリアは「もっとも恵まれない地域の一つで、76%の住民がSocial Benefits(社会保障や給付金のようなもの)の支援を受けている」と、カレン氏は言う。だからこそ、こういった活動が重要となる。 「我々フットボールの関係者は、トラックスーツを着て地域に出ていき、例えば、病気を持った子供たち、大人たちのサポートをしています。良い教育を与えることや、良い雇用を与えれば、劇的にその人の人生は変わっていく、全てが次世代のサステナビリティに繋がっていくのです。選手たちも学校や教室に行くのですが、子供だけでなく、さまざまな障害を持った大人に対しても活動しています。教育に関しては、貧困地域の子供たちにチューターを付ける活動をしていて、ケンブリッジ大学に進学した子供もいます」(カレン氏) こういった活動の結果、推定5億8千万ポンドのGVA(※4)を生み出しているという。(※4:Gross Value Addedの略、総付加価値額) トッテナムのCRO(Chief Revenue Officer、最高収益責任者)であるライアン・ノリス氏は、サステナビリティがクラブのブランドの一貫になっているという。 「もちろんファンが全ての活動の中心にはあるが、ファンにヒアリングしてみると、3人の内の1人が、製品を買う時にサステナビリティを重要視するというデータが出ています。86%の人たちがクリーンエネルギーをサポートしているともあり、スパーズ(トッテナムの愛称)ファンは他クラブのファンよりも10%くらい意識が高い」 そして、大切なのは発信することだという。 「プレスリリースなど通じて、数字を公に伝えることが大切。あらゆる活動において、一年後には『これはできた、あれはできなかった』の確認をしながらやっている。パーパス、サステナビリティと言いつつも、ビジネスであることも考慮しているし、ファンが私たちの中心にあり、クラブとしてはサステナビリティの取り組みでは常に楽しいことをすることを意識している。私たちのサステナビリティチームは毎日そんなことを考え、色んなストーリーを作ってパートナー企業に共有するのです」(ノリス氏) 約8時間にわたって行われたサステナビリティカンファレンス。具体的な数字を載せた詳しいプレゼン資料を用いるなど、非常に濃密な内容だった。トッテナムの徹底したサステナビリティへの取り組みや考え方は、来場した多くの日本のスポーツ関係者にとって得るものが多かっただろう。トッテナムが日本のカンファレンスで伝えた事は、日本のスポーツ界でもこういった取り組みの拡がりを期待しているからこそだろう。「To Care is To Do(行動なくして成功無し)」。トッテナムが日本で行動してくれたことは、今度は日本のスポーツ界が行動していかないといけない。
大塚淳史