「ダサい音楽」だとレッテルを貼られた時代も…けっきょく、日本の「フュージョンブーム」は何だったのか
過剰にポップ過ぎない
柴崎:そう考えると、森園さんにしても、大野さんにしても、エレクトリック・バードのカタログの特徴として、過剰にポップ過ぎないっていうのを挙げられるかもしれませんね。THE SQUAREとかカシオペア的な徹底したキャッチーさと比較すると、少しドープっていうか。 鳥居:必ずしもハイファイさや派手なポップさを第一優先にしているわけではない感じがしますよね。アメリカ西海岸の明るさに対する、東海岸の陰りの美学と言うか。そういう意味でいうと、やっぱりデヴィッド・マシューズのキーマンぶりが目立ちます。 柴崎:自分のリーダー作を含めて、大量のエレクトリック・バード作品に参加していますからね。彼のセンスこそがエレクトリック・バードのイメージの重要な部分を形作っていた、とも言えそうです。 鳥居:マシューズの初参加作品である益田幹夫さんの『コラソン』(1978年)も、あくまで抑制的で、スモールコンボの枠組みを決して邪魔しないコンパクトな渋さがあって自分好みです。あえて言うなら、インディーズ的な感覚が滲んでいるような気さえして。そこが今っぽさに繋がっているのかもしれません。 柴崎:なんといっても、元々ジェームス・ブラウン関連作のアレンジをやっていた人ですもんね。もちろん、CTI関連の洗練されたスコア仕事も素晴らしい。 鳥居:硬軟両方に精通している。その両面性がエレクトリック・バードのカラーに合致している気がします。
イギリスのクラブシーンでも人気があった
柴崎:コア寄りの層に受けるっていう話でいうと、エレクトリック・バードのレコードって、当時盛り上がっていたイギリスのクラブカルチャーである「ジャスダンス」のシーンでも人気があったんですよね。当時のDJチャートを見ると、同時期の他の日本産フュージョン作品に混じって、例えば、本多俊之さんの『バーニング・ウェイヴ』(1978年)のタイトル曲とか、同じく本多さんの「ココナッツクラッシュ!」(1981年作『ブーメラン』収録)、益田幹夫さんの「シルヴァーシャドウ」、「マイ・ディライト」(1980年作『シルヴァーシャドウ』収録)、上田力ウィズ・ニュー・バードの「Qué Lastima」(1981年作『ハートランド』収録)等がプレイされていたことがわかるんです。 鳥居:へえ、そうだったんですね。面白い。 柴崎:中でも特に熱く支持されていたのが沢井原兒&ベーコン・エッグの『スキップジャック』(1981年)だそうです。このアルバムの人気ぶりについては、柳樂光隆さんによるジャイルス・ピーターソンへのインタビューでも触れられていましたね。 鳥居:確かに、かなりファンク色が強くて踊れる内容ですもんね。 柴崎:当時の日本のフュージョンファンがプレイヤー志向の強い受容の仕方だったのとは対象的ですね。まず、いかに踊れるかで判断するっていう。 鳥居:ここ最近のフュージョン再評価もそういう視点が流れ込んでいる気がします。