トマ・ピケティ「社会保障や気候変動の課題に対処するには、ビリオネアへの課税強化は必須だ」
効果的な課税強化
ビリオネアへの課税強化は無理だと言う人のなかには、それが違法、違憲だと言う人もいる。これは何も新しい話ではない。どの時代も権力者は、法の言語を駆使して自分たちの特権を守ろうとしてきたからだ。だが、憲法のどこを見ても、ビリオネアの資産の増大分に1回限りの課税をしてはならないとは書かれていない。それどころか、資産に対する課税を禁じる文もどこにもない。 資産は、収入と同じように、市民の納税力を示す指標である。だからこそ、フランスでは1789年から、相続税の制度や(収入とは無関係の)固定資産税の制度が導入されたのだ。1945年には、資産の増大分に対する特別な課税が一度、実施されたこともある。憲法院判事の一部は、これらのことを蔑ろにし、自らの立場を利用して党派的な自分の見解を押し付けようとしているが、見誤ってはならない。これは政治の議論であり、法律の議論ではないのだ。 超富裕層への課税強化だけが、問題の解決策だというわけではない。フランスのバルニエ首相が打ち出したバルニエ税では、年収が50万ユーロ以上の世帯への課税が強化される。問題は、この課税では20億ユーロしか税収が得られないことだ。ビリオネアの資産増大分に10%の課税をしたときに税収として入る1000億ユーロに、遠く及ばない。加えてバルニエ税では、ビリオネアの納税額はあまり高くならない。なぜなら、彼らの収入は、資産に比べると微々たるものだからだ。 つまり、バルニエ税を実施するとどんな結果になるか。バルニエ政権の予算では、最も貧しい者たちが、最大の負担をするだけでなく、公共サービスの削減で最も打撃を受けることになる。このような戦略では早晩、壁にぶつかるのは目に見えている。 これからの社会保障や気候変動の課題に対処するには、最も裕福な資産家たちに対し、誰にでもはっきりとわかるかたちで課税強化をしていかなければならない。
Thomas Piketty