トマ・ピケティ「社会保障や気候変動の課題に対処するには、ビリオネアへの課税強化は必須だ」
どうしたらビリオネアに課税できるのか
話を具体的にしてみよう。仮にビリオネアの資産増加分に税率10%で課税したら、何が起こるだろうか。そのビリオネアが、その年に出した利益だけで税金を支払えないなら、保有している株式の一部、たとえばポートフォリオの10%を売ることになるだろう。その株式の買い手が見つからないなら、国家が株式での納税を受け付ければいい。国家は必要に応じて、そうやって得た有価証券を、自分たちの都合に合わせて売ればいい。 たとえば、従業員が勤め先の株式を買えるようにしてもいいだろう。そうすれば従業員が企業の経営に参画する度合が高まる。いずれの場合でも、公的債務は削減できる。 次に、近代国家の力が弱すぎて、ビリオネアに税金を支払わせるのは無理だという話もよく聞く。グローバル化が進み、資本が自由に移動にできるようになったいま、ビリオネアへの課税強化へ踏み切っても、彼らに都合のいい地域に逃げられ、当てにしていた税収は得られず、煙となって消えてしまうというわけだ。 この議論に説得力を感じる人も多いようだ。だが実際には、この議論は偽善であり、論拠も弱い。第一に、資本が自由に移動できるようにしたのは国家なのだ。国家が公的な裁判所を設けて、洗練された法制度を保証しているわけだから、国家がその法制度を変えようと思えば変えられるだろう。 第二にこの議論は、主権を放棄するような話に等しい。政界の指導者たちは、国家に権威を持たせる話を語るのを好むが、その権威を、力のある者たちに対して使うのではなく、貧しい者たちに対して使うのが気楽でいいと考えているかのようだ。 また、この議論は敗北主義的であり、国家にまださまざまな行動を起こせる余地が残っていることを忘れている。一国だけでも行動すれば、できることはある。たとえば米国がスイスの銀行の免許を取り消すと脅しをかけたとき、スイス政府は、同国の銀行の秘密主義を終わらせた。 また米国では、米国外に住んでいても、米国籍の保有者は課税される。たとえ米国のパスポートを手放すという、それなりにリスクのあることをしても、その人の資産が米国内で増えていたり、その人がドルを使い続けていたりしたら、米国政府はその人に課税をし続けられる仕組みになっているのだ。 フランスは米国に比べれば規模が小さい国だが、それでも大きな圧力をかける手段がないわけではない。たとえばフランスに在住した年月に応じて、資産の増大分に一回限りの課税をすることもできる。フランスで50年暮らしたあと、昨年からスイスで暮らしている人がいたとしよう。この人にフランスの在住者が支払うべき税金の51分の50を課税するのだ。納税を拒む者は無法者として扱われ、それに応じた制裁が科されることになる。