トマ・ピケティ「社会保障や気候変動の課題に対処するには、ビリオネアへの課税強化は必須だ」
この記事は、世界的なベストセラーとなった『21世紀の資本』の著者で、フランスの経済学者であるトマ・ピケティによる連載「新しい“眼”で世界を見よう」の最新回です。 【画像】トマ・ピケティ「社会保障や気候変動の課題に対処するには、ビリオネアへの課税強化は必須だ」 フランスでは税をめぐる議論が盛り上がっており、2024年のG20でも税の議論がなされた。そのことからもはっきりとわかるだろう。「公正な税負担」や「ビリオネアに対する課税強化」といった議題は当分、公的な議論の場から消えることはない。理由は単純だ。超富裕層がこの数十年で得た資産があまりにも莫大なのである。この問題は副次的だとか、象徴的な話に過ぎないと考える人は、まず数字を見てほしい。 フランスの資産上位500人の資産を合算した額は、2010年の時点では2000億ユーロ(約33兆円)だったが、いまは1兆2000億ユーロ(約200兆円)だ。2010年以降で1兆ユーロも増えた計算になる。 言い換えるなら、この資産の増加分に対して1回限りで税率10%の課税をすれば、1000億ユーロが入るわけだ。1000億ユーロといえば、フランス政府が今後3年間で削減しようとしている予算とほぼ同額である。仮に税率を20%にしても、それはまだまだ穏便な課税の範疇に入るだろう。その場合、2000億ユーロの税収を捻出でき、政府はそれに応じた支出もできるようになるだろう。 ところが、超富裕層に対する課税を強化しようというこの議論を拒む人が一部にいるのだ。そんな人たちが口にする言い分をここで吟味しておこう。 まずよくいわれるのは、民間の莫大な資産も、帳簿上の数字に過ぎず、実際には存在しないという話だ。それはその通りだ。たしかにそれはコンピュータ上の帳簿の数字でしかない。だが、それをいうなら、公的債務も、銀行口座に振り込まれる給料も同じだ。超富裕層の資産は、それがただの帳簿の数字でしかなくても、社会階級間の力関係や公権力との関係に影響するので、人々の暮らしにも影響を及ぼしているのだ。