脳トレよりも麻雀、鯖は味噌煮でなく刺身…専門医が解説「本当に効果のある認知症予防」の新常識
よく「物忘れが気になる人のために」といった謳い文句のサプリメントがありますが、これもあまり効果はないと考えます。そもそも、記憶を司る重要な器官は脳の中心部にある海馬です。ここに直接作用する物質、薬品は発見されていません。仮にそうした物質があったとして、それを配合したサプリメントであれば、「記憶が良くなるサプリ」と表記するでしょう。しかし現状では、そうした物質はなく、だから薬機法にひっかからないように「物忘れが気になる人……」などと書いているのです。 確かなエビデンスから言えることは、オメガ3脂肪酸やエイコサペンタエン酸(EPA)、ビタミンEなどは、抗酸化効果が確認されています。そうした物質を配合したサプリメントであれば、細胞の酸化を抑制することで、血管の劣化を防ぎ、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβを作りにくくする効果があるでしょう。ただし繰り返しますが、そうしたサプリにも、直接記憶力を改善する効果はないのです。 ■予防になるからといってやりすぎてはいけないこと ここまで述べてきたように、認知症の症状、特に記憶そのものに直接作用する物質はありませんが、その原因となる疾患を予防する物質は存在します。 よく知られているのが地中海式食事法の中心的な存在であるオリーブオイルです。オメガ9脂肪酸が多く含まれ、悪玉コレステロールの上昇を抑え動脈硬化を予防するほか、抗酸化作用も示します。 とはいえ、摂りすぎはだめです。要するに油なので、大量に摂取すると高脂血症や糖尿病などのリスクが高まります。こうした疾患は同時に認知症のリスクも押し上げるからです。オメガ3脂肪酸やポリフェノールを多く含むナッツ類についても同じ。摂りすぎは脂質異常症の引き金となります。 ビタミン豊富な果物はいいだろうと思いがちですが、これも摂りすぎは注意。最近の果物は品種改良の技術が進み、甘みが増しています。果物の甘みは果糖です。摂りすぎは、糖尿病などのリスクを高めます。 積極的に摂りたいのはβカロテンが豊富に含まれている緑黄色野菜です。βカロテンには強い抗酸化作用があります。活性酸素を除去してくれるので、血管や細胞の老化を防ぎ、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβの産生を抑制してくれます。 また、緑黄色野菜は食物繊維が豊富なので、腸内環境を整えてくれます。「脳腸相関」という言葉があるくらい、脳と腸はホルモンや自律神経を介して互いに影響し合っています。腸の健康は脳の健康に繋がるのです。 鯖(さば)や鰯(いわし)、秋刀魚(さんま)などの光り物の魚もいい。中性脂肪や悪玉コレステロールを減らすとされるEPAや、動脈硬化を低減させて細胞を活性化させるDHAなどが多く含まれています。これらを摂取することで、アルツハイマー病や脳血管疾患を予防できます。ただし、焼いたり、煮たりすると、効果は半減します。鯖の味噌煮などではなく、なるべく素材に近い形、つまり刺し身で食べることです。 血流量を高め、細胞を活性化し、足腰を鍛えて、活動的な生活を送ることができるようになるための適度な有酸素運動は、認知症の予防にとって大きなプラスになることは、様々な研究結果が示しています。 ただし、これもやりすぎは良くない。運動強度を示すものとして、METsという単位があります。3~4METsが程よい運動とされています。厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2006」によれば、平地を速歩で15分程度歩く運動です。やりすぎると逆に活性酸素が生成され、血管を傷つけることになってしまう。 認知症の原因とされる因子の4割は、何かしらの方法で予防できるといわれています。ここまでお話ししたことを参考にトライしてみてください。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年12月13日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 眞鍋 雄太(まなべ・ゆうた) 神奈川歯科大学臨床先端医学系認知症医科学分野教授 藤田医科大学救急総合内科客員教授。医学博士。日本認知症学会専門医・指導医。数少ないレビー小体型認知症の専門医。認知症関連学会の委員や代議員として活動している。 ----------
神奈川歯科大学臨床先端医学系認知症医科学分野教授 眞鍋 雄太 構成=末並俊司