脳トレよりも麻雀、鯖は味噌煮でなく刺身…専門医が解説「本当に効果のある認知症予防」の新常識
■予防法の定番「脳トレ」は一人でやっても意味がない 認知症は予防できるのか、それともできないのか。誰もが知りたいところですし、長く議論もされています。残念ながら、「認知症は予防できる」と言い切ることはできません。ただし、予防できる認知症もあります。 【図表】三大認知症の「たしかな」予防法 そもそも、「認知症」とは状態を指す総称です。原因は大きく分けて3つ。1つめが、「アルツハイマー病」。2つめが「レビー小体病」。さらに、「脳血管障害」です。これらの疾患が原因となって認知機能低下が起こり、生活に支障が生じた状態を認知症と呼んでいるわけです。 このうち、アルツハイマー病については予防ができます。脳血管障害も、同様に予防できる。しかし、レビー小体病については、原因も不明で、予防の手立ても見つかっていません。つまり、現状では予防はほぼできないと言っていいでしょう。これが認知症予防に関する大前提です。予防についての具体的な例ですが、間違ったまま広まっている予防法が多くあります。 算数のドリルのような計算問題や、クロスワード・パズル、ナンプレといったものを黙々とやって、脳を活性化するというのがいわゆる脳トレですが、これはあまり意味がありません。認知症とは、突き詰めて言うと、脳の前頭葉の働きに関する病気です。ここを活性化させるには、他者とのやり取りを含んだマルチタスク、つまり複数の課題を同時にこなすことが重要です。脳トレは、目の前の単純な課題を、ひとりでこなしていくだけの自己完結型のシングルタスクです。これでは効果的な前頭葉の刺激にはならないのです。 一方、麻雀や囲碁、将棋などは、対戦相手がおり、そこに駆け引きが生まれます。会話も活発に交わされます。これぞマルチタスクです。こちらは前頭葉の刺激になり、アルツハイマー病などの予防に繋がります。 完全な禁酒も意味がありません。適量であれば飲んだほうが認知症の予防に繋がるほどです。2008年の時点で、アルコールに認知症予防の効果があるという調査結果が報告されています。少量のアルコール摂取は、血流を促し、脳血管障害のリスクを低減させるのだと考えられています。 では、どのくらいの飲酒が適量なのか。体格や性別によってまちまちなのですが、目安としては、純粋なアルコールで、1日に10グラム程度です。350ミリリットルのビールに換算すると、7分目ほど。もちろん飲みすぎは、逆に認知症を招きます。純粋なアルコールで1日20グラムを超えるとリスクは跳ね上がります。アルコールの摂りすぎでビタミンB1が過剰に消費され欠乏すると、記憶障害を主体とする認知症(コルサコフ症候群)を生じる危険性が高まるのです。 さきほど、レビー小体病については予防法がないと言いましたが、光明もなくはない。一卵性双生児を対象にカフェインとレビー小体病に含まれるパーキンソン病の関係を研究した結果がそれを示しています。 同じ遺伝子を持つ一卵性双生児の一方は日常的にカフェインを摂取する。もう一方は摂取しない。それぞれについて調査をしたものです。これによると、カフェインを摂取した群のほうが、パーキンソン病を発症しにくいという結果が出たのです。カフェインには認知機能を改善する効果が見られ、抗酸化作用や神経保護作用が確認されています。アルツハイマー病の原因物質アミロイドβの産生抑制・除去促進効果も報告されています。少なくとも、コーヒーをやめる必要はなさそうです。