「まるで井上尚弥選手です」なぜ藤井聡太21歳は八冠窮地でも“余裕”に見えるか…「極めつつある」タイトル経験者・中村太地36歳が驚く進化
〈上手くいっていない状況〉すら事前に思考している?
話を藤井叡王に戻しましょう。 カド番における戦い方が、すでに藤井叡王の脳内にはあったのかもしれません。 将棋において「負けた前提」のイメージトレーニングをするという人は、あまり聞いたことがありません。 衝撃的な早期KOを実現するパンチ力と終盤も軽快に動くスタミナを持つ井上選手のように……藤井叡王も安定した序・中盤に加えて唯一無二の終盤力と、スキのない強さを誇っています。それに加えて〈自分が上手くいっていない状況〉すら、我々の知らない水面下で事前に思考しているとしたら。そう想像すると、底の見えない恐ろしさすら感じます。
太地が考える、「極めつつある」藤井将棋の内容とは
藤井叡王は局面ごとにおいて、最善を選び続ける。そこに全力を傾ける姿勢が人々の心をとらえています。それと同時に、1人の棋士として「何かしらの変化」を求めようとしているのかな、と感じることもあります。 例えば、後手番だった叡王戦第2局で見せた「3三金型角換わり」というものです。これを採用したということは、ご自身の中で何らかの認識が変わった。もう少し踏み込んで言えば、藤井叡王は「先手の角換わりに対して、非常に自信を持っているのではないか」と感じます。 一体それは、どういうことか。 藤井叡王は先手・後手どちらでも角換わりを採用するなど、エース戦法として知られています。ただ、特に居飛車党はそうなのですが、自分が先手を持った場合に自信がある戦法に、後手番で対応しなければならない場面が出てくるんです。先手番の研究を進めれば進めるほど、自分が後手番に回った際に首を絞めるような、不思議な状況とも言えます。特に角換わりという戦法は変化の奥が深く、とりわけ難しい。 これは仮定の話ですが……研究を進めるうちに「藤井叡王vs藤井叡王」や「中村太地vs中村太地」といった感じで、自分同士が共に同じ得意戦法でぶつかったらどっちを持ちたいのだろう、というジレンマや矛盾にぶつかるときがあるんです。 そんな状況で藤井叡王が角換わりの違う形を模索している。ということは、見方を変えれば〈先手番での角換わりを極めつつある〉という宣言のようにも感じています。
“先手角換わりの藤井”に勝った伊藤将棋も衝撃だった
それだけに藤井叡王が先手角換わりを選択した叡王戦第3局で、伊藤七段が勝ち切ったことには――私はABEMAで解説を担当していましたが――大きな衝撃を受けました。伊藤七段が見せた強さと成長ぶりにも、驚かされる面が多いのです。 <つづく>
(「進取の将棋」中村太地 = 文)
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