“職業選択の自由を制限”指摘も…再犯リスクに近づかないことは「当たり前」 性加害・小児性愛の治療専門家【日本版DBS】
■性犯罪 刑務所に閉じ込めるだけでは問題解決しない
──斉藤さんは子どもへの性加害者に特化した治療グループを作られた。その背景は 性犯罪のプログラムで重要なのは、適切なリスクアセスメントと治療継続率です。性犯罪の加害者の中で最も治療の定着率が低いのが、子どもへの性加害を繰り返してきた、いわゆる小児性愛障害の人たちです。 性犯罪者内にもヒエラルキーがあり、私は最底辺が子どもに性加害を繰り返す人たちではないかと思っています。排除されることで社会に居場所がなく、彼らの再犯リスクは上がっていきます。社会の中に治療の場という受け皿を作り、自分がやったことを正直に話せる安全な場を用意し、そして同じ加害の問題を持った人たちと繋がり、やめ続けるための土壌を作る必要があります。 ──性加害者臨床にあたる難しさは何ですか 性加害者は非常に習癖性(くせになり、繰り返す)が高く、再犯防止の治療が難しいと言われています。性加害は、性欲や性衝動だけではなく、弱い者を支配したい、達成感を感じたい、男性としての力を確認したいなど複合的な快楽が凝縮した行為なのです。だからこそ、反復性や衝動性が高く、その行為自体がエスカレートしやすく、なかなか手放せないうえに、捕まらないよう計画的に加害を行います。 それゆえに、捕まったときは行動変容するチャンスです。認知行動療法や薬物療法だけではなく、彼らの生活そのものに伴走するサポートがないと、特にハイリスクの対象者が加害行為をやめ続けながら、社会復帰していくのは至難の業です。刑務所に閉じ込めておくだけでは、この問題は解決に向かいません。 刑罰とエビデンスに基づいた治療をセットにするという考え方が少しずつ広がってきていますが、長期間、関わり続けないと再犯防止ができないのは、非常に難しいところだと思います。
■受容と共感と傾聴 巧みに使う加害者
今まで3000人を超える様々なタイプの加害者と関わってきましたが、彼らは見た目では全くわかりません。スーツにネクタイ、家族がいて、4年制大学卒も結構います。つまり身近な人が性加害している可能性があるんですよね。「自分は被害者にも加害者にもならないし、関係ない」ではなくて、実は身近なところにこういう問題があると考えていただきたいんです。 子どもに性加害をする人は見た目は柔和な方もいて、比較的優しいです。彼らは受容と共感と傾聴を巧みに使いながら、まず子どもにとって安心できる大人になっていきます。そこから徐々に性的意図を隠しながら接近し、境界線を侵害していきます。そして、加害行為に及んだら口止めをし、いずれこれは経験することだと言って次の加害ができる維持行動をとります。非常に戦略的に加害行動を実行に移します。 同時に親、同僚など、被害者側の声を封殺するために、周囲の環境もグルーミング(手なづける)します。加害者によっては、事前に母子家庭や貧困家庭で育っているなどを把握し、グルーミングを始める場合もあり、計画的で巧妙だなと思います。