“職業選択の自由を制限”指摘も…再犯リスクに近づかないことは「当たり前」 性加害・小児性愛の治療専門家【日本版DBS】
■再犯は防げても、初犯を防げないことが課題
──今回の法案には、初犯を防ぐために研修実施が盛り込まれたが、どのような研修が必要か 現実的には初犯を防ぐのは非常に難しいです。性犯罪は、再犯は防げても初犯を防げないことが大きな課題です。逮捕される前に、かなりの数の加害行動を繰り返しているケースも多いです。1回目の加害行動をどう防ぐかは、非常に重要なテーマです。包括的な性教育を幼少期からしっかり行えば、加害者になる可能性がある人が、自分の行動を制御するための知識を身につける機会になります。 一方で、研修等の実施は、最初の段階でフィルターをかける意味では重要かもしれませんが、子どもへの性加害をするリスクのある人を発見するのはかなり至難の業だと思います。 ──性犯罪歴照会のあり方は 法案では、犯罪歴のある人を登録するシステムがとられました。私は、犯罪歴のない人だけが登録できるシステム(イギリスの登録制度Ofstedのようなもの)にして、加害者側のプライバシーを脅かさず、犯罪歴のない人が子どもに関わる分野で働ける、こちらの方がシンプルでいいと思います。
■性加害の実行リスクを「どう回避するか、身につける」
性加害を繰り返している人たちの再犯防止は可能です。世界共通の科学的エビデンスに基づいた治療教育のプログラムが存在します。性加害を実行しそうになるリスクがある場合に、それをどう回避するか、具体的な対処行動(コーピング・スキル)を学び、身につけていくもので、受講する人の再犯リスクの高さに応じた内容となっています。 指定の刑務所で2006年から行われていますが、クリニックの場合は期間が決まっていないことが刑務所との大きな違いです。理想は、刑務所でも受ける、出た後も引き続き受けることです。 ──治療に繋がるまでどのくらいかかりますか? クリニックでの患者調査によると、痴漢の場合は、初めての加害行為からクリニックに繋がるまで平均8年がかかります。盗撮の場合は、平均7.2年。子ども性加害者の場合は、14年です。常習化するほど介入が難しく、この期間をいかに短くするかが重要なので、治療的保護観察制度や、執行猶予判決とセットで治療命令を出せる制度の創設などにも取り組まないといけないと思います。 ──海外では、性犯罪防止のために加害者の情報を公開するなどしていますが。 現在、日本にはそのような二重罰の制度はありません。私は、例えば保護観察付きの執行猶予判決の場合や、仮釈放で出所した場合は、治療的な保護観察という制度という制度のもと、プログラムに強制的につなげる、そしてそれを拒否すれば再収監されるイギリスなどをモデルにした治療的保護観察制度が有効だと考えています。 ただこの場合、満期出所者をどうするかという問題があります。出所後は自分で何とかしなさいというのが今の日本の司法制度です。DBS制度の次の見直しでは、専門治療と社会復帰をどうするかを考えてほしいです。 仮釈放で保護観察がつくということは、犯罪傾向が進んでいなくて、刑務所内でも真面目に取り組み、社会復帰の見込みが高い、住む予定地があり、身元引受人などもいる場合です。一方、満期出所ということは、何回も犯罪を繰り返していて、身元引受人も住む予定地もないということです。このいわばハイリスクともいえる満期出所の性犯罪加害者への対応が、国として全く手つかずなので、何とかしないといけないなと思います。