セレンディクスとは?能登「3Dプリンター住宅」で問い合わせ1万件超、意外な別の顔
能登の復興住宅で注目「セレンディクス」が持つ“別の顔”
そんな中、日本でも3Dプリンター住宅で注目されている企業がある。2024年1月に起きた地震と9月の大雨によって大きな被害に遭った能登半島に3Dプリンター住宅を建設したセレンディクスだ。10月に公開された能登での第1号住宅が注目を集め、現在は問い合わせが1万件を超え、購入意向を表明する顧客は3000件を超えるという。 2018年に設立された同社は、ややユニークな経緯で生まれた会社である。 セレンディクスの社長である小間裕康氏は、フォロフライという、日本向けの商用車を開発し中国からOEMで車体の供給を受け販売する、ファブレスEV企業の社長としての顔も持つ。 フォロフライの前身はGLMというEVスーパーカーの開発・販売をする企業で、その時に使用した車製造用ロボットなどを使って新しいモノを生み出せないかという思いから、3Dプリンター住宅の企画販売を始めたという。 小間氏は「当時ラオスにいたCOOの飯田が、『安いコンドミニアムを造って現地の人に提供したい』と言っていたのに感化され、低コストで建てられる家に興味を抱いた」と語る。
ファブレスEVを住宅に応用、セレンディクスが注目される理由
3Dプリンター住宅とはすなわち、家の建設をロボットが担うということだ。現在では工業用ロボットは一般的であり、ロボットアームはすでにコモディティ化している。これを利用し、住宅用素材の開発、設計デザインなどと組み合わせ、複数の3Dプリンター企業と提携することでセレンディクスは生まれた。 小間氏はこうした動きを「家作りの水平分業」だと語る。「水平分業」は同氏がEV製造においても繰り返し語っている言葉だ。 これまで既存の自動車メーカーのモノ作りは垂直分業、つまり自社で子会社などを抱えすべての工程をこなすというものだった。だがフォロフライはファブレス化(他社に製造を委託し、自社ではデザインや設計のみを行うビジネスモデル)し、自社はデザイン設計、製造は外部に委託、さらに他社と提携することで共通のパーツなどを共同購入してコストを削減するという手法をとってきた。これを住宅建設にも適用している。 セレンディクスが担当するのは設計デザインで、それらのデジタルデータに対する特許を取得し、いわばライセンスビジネスを展開する。製造拠点を提携企業に託すことにより、自社の負担は少なく、倒産リスクを低く抑えられるのが利点だ。 これはユニクロを習ったもので、素材メーカー、販売網、工場網を水平に統合することで世界に打って出られるビジネスを構築している点で参考になったという。 2024年10月に大阪で開催されたイベントに出展したセレンディクスは、「スマホで注文、現地で組み立て、早ければ24時間(作業延べ時間)で家が完成」と銘打っていた。現時点でモデル数が少なく、細かい仕様なども限られているため、こうした簡潔な住宅注文も可能だ。 ライセンスビジネスは、今後海外に進出する際にも大きな力となる。まずは日本国内で、その後同社のWebサイトを利用するという条件で提携企業に特許を開放し、東南アジア、米国などでも同じ技術で家が建てられるようになる。つまり、スマホで同社のWebサイトから家を注文すれば、世界のどこでも同じ技術や素材を用いた家が低コストで建設できるようになる可能性がある。 セレンディクスが現在販売する住宅は2種類で、グランピングなどの用途に使われるワンボックス型のものと、1LDKの小規模住宅だ。 全国に6つの拠点と8つの3Dプリンターがあり、最寄りの拠点で出力された部品を現地に運び、最終的な組み立てを行う。 顧客としては60歳以上のリタイア世代が多く、平屋で階段がない、コンパクトで狭い土地でも建てられる、コストが安いなどの理由から、老後を過ごす住宅としての需要が見込まれる。 特に能登に建設した住宅について、小間氏は「仮設ではなく復興住宅。当社の家はコンクリートミックスを素材として使用しており、耐用年数は50年を超える。耐震、耐熱性能も高く、災害に遭った方々が長く安心して暮らしていただける家となっている」と語る。