雑誌も原爆ARも…すべては核問題考えるため 平和賞に抱いた「複雑な思い」 3世の〝伝える〟挑戦
無関心ではなく「未認知層」
金澤:トムさんはショート動画などに力を入れています。尺の取り方やテーマ設定など、伝え方のポイントを教えてもらってもいいですか? トム:僕たちが一番届けたい層は、これまで社会のことを考えたことがなかったり、まだ関心を持てていなかったりする人たちです。入り口を作っていこうという考え方でやっています。テーマ設定としては自分たちの暮らしに直接結びついているものとか、まず一歩目を踏み出しやすそうなテーマから選んでいます。 金澤:なぜ動画という方法、さらにいうと、ショート動画という方法にたどりついたのですか? トム:従来のSNSは、気になる人をフォローしたりして、自分が取りたいものを取る使い方で、情報の受信者側が選ぶというのが元々の在り方だったと思っています。 ショート動画が出てきた時に構造が変わったと思っています。情報の受け手はただSNSの前にいるだけで、おすすめを見ていたらAIが「これどうですか」「あれどうですか」と流してくれる状態になったじゃないですか。これは悪い面もあるかもしれないけれど、良い面もあると思っています。 例えば、「地球温暖化 解決策」とキーワード検索する人って多くはないと思うんです。わざわざ検索をしない人にどう情報を届けるかというのがすごく難しかった。 このAIのアルゴリズムをうまく使うことができたら「わざわざ検索はしないけど、面白いコンテンツを届けてくれさえすれば見ます」みたいな、これまで無関心だと言われていた「未認知層」にも情報を届けることができるんじゃないかと思っています。 金澤:中村さんはウェブでの発信についてどう考えていますか? 中村:これまでの反核運動の主な媒体は紙でした。被爆証言も、証言集だったり、口伝だったり、若い世代が情報収集に使っているようなSNSの情報の流通からかけはなれたところにあります。 被爆体験を伝える側も、どうしたらそうした世界に入れるかを模索されていて、そのなかで上の世代と下の世代が協力するシーンは生まれていました。でも、短い時間の中で語るというのはすごく難しいなとも思っています。私もまだ、ウェブに特化したコンテンツは作れていません。 この複雑で言葉も多くなってしまうテーマを、どうしたら端的に伝えていけるか。あるいは、そもそも端的な情報として処理してしまっていいのか、という葛藤もありつつ、被爆者の方や上の世代の方と対話・議論をしながら今後も詰めていきたいなと思います。 被爆者の方の声を直接聞ける残された時間を考えると、本当にここ数年が最後のチャンス、過渡期にあるんじゃないかと考えています。