JAXA「イプシロンS」再地上燃焼試験で爆発した第2段モータの原因調査状況を報告
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2024年12月25日、再地上燃焼試験で発生した「イプシロンS」ロケット第2段モータの燃焼異常について、原因調査状況に関する記者説明会を開催しました。 直近のロケット打ち上げ情報リスト
イプシロンSロケットとは
イプシロンSは前身となる「イプシロン」ロケットを発展させる形で開発が進められている3段式の固体燃料ロケットです。JAXAによれば、イプシロンSでは1段目を「H3」ロケットの固体燃料ロケットブースター(SRB)と共通化することなどによる相乗効果や、衛星受領から打ち上げまでの期間をイプシロンの3分の1程度となる10日以内にするなどの改良を行うことで国際競争力を高め、小型衛星打上げ市場で競争可能な価格帯を実現するとともに、契約から1年以内・年2回の打ち上げ機会提供を目指すとされています。 開発完了に向けてイプシロンSの第2段モータ地上燃焼試験が2023年7月14日に秋田県の能代ロケット実験場で行われましたが、点火57秒後に爆発が発生。原因調査と対策を講じた上で2024年11月26日には第2段モータの再地上燃焼試験が種子島宇宙センター竹崎地上燃焼試験場で行われましたが、点火約49秒後に再び爆発が発生しており、JAXAは同日中に原因調査チームを立ち上げてデータの分析を進めています。
燃焼ガスの漏洩と爆発はモータケース後方で発生と判断
2024年12月25日の会見では原因調査チームのチーム長を務める岡田匡史さん(宇宙輸送技術部門長/理事)と、原因調査班の井元隆行さん(イプシロンプロジェクトマネージャ)が状況説明と質疑応答に臨みました。会見の時点では試験データに基づく事象の把握が完了しており、各事象の詳細が確認されています。 まず、燃焼圧力のデータを確認したところ、2024年11月26日の再地上燃焼試験では点火約17秒後から圧力が予測値よりも高いほうへと徐々に乖離。点火約48.9秒後には最大の約7Mpaに到達したところで下降に反転しており、燃焼ガスの漏洩はこの時点で始まったと判断されています。その0.4秒後となる点火約49.3秒後には圧力が急激に下降しており、爆発はこの時点で発生したと判断されています。 次に、加速度のデータと歪(ひずみ)のデータを確認したところ、点火約48.9秒後(燃焼ガスの漏洩開始)と点火約49.3秒後(爆発発生)の加速度と歪の変動はいずれも後方から始まっていることから、燃焼ガスの漏洩と爆発は第2段モータケースの後方で発生したと判断されています。 以上のことから、原因調査チームは「点火約17秒後から燃焼圧力の乖離が高いほうへ徐々に拡大」「点火約48.9秒後に燃焼圧力が下降(燃焼ガスの漏洩)」「点火約49.3秒後に燃焼圧力が急激に下降(爆発)」の3点をトップ事象としたFTA(故障の木解析)を展開し、原因特定に向けた評価を開始しました。なお、今回の試験で第2段モータに組み込まれていたイグナイタ(点火装置)は爆発後に回収されており、2023年7月に能代ロケット実験場で発生した爆発の原因として対策が施されたイグナイタやイグブースター(イグナイタを構成する部品の1つ)の溶融は起きていないことがすでに確認されています。 原因調査チームは今後、あらゆる可能性を考慮しつつ3つのFTAに対して原因の絞り込みを進め、必要に応じて解析と試験を追加で実施することも検討するとしており、並行して竹崎地上燃焼試験場で試験を実施する場合に備えて設備の復旧計画も検討するということです。FTAの詳細評価を一通り取りまとめる時期として、2025年2月が目標に掲げられています。 また、イプシロンSの開発を完了する上で第2段モータの地上燃焼試験による実証が必須であり、再々地上燃焼試験に向けた準備や試験結果の解析などに要する期間を考慮した上で、JAXAは2024年度中のイプシロンS打ち上げは技術的に不可能であると正式に確認しています。 Source JAXA - イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験における燃焼異常原因調査状況に関する記者説明会 (YouTube)
sorae編集部