韓国の元統一部長官「尹錫悦政権の北朝鮮崩壊論は滑稽な主張」
「2012年の金正恩(キム・ジョンウン)委員長就任以来、今回が3度目の大型洪水被害復旧作業だ。今回は国家資源が以前より体系的に復旧作業に動員されている印象を受けた。朝中国境の大都市と農村の再開発事業も途切れることなく続いている」 イ・ジョンソク元統一部長官が8月下旬、北朝鮮と中国の間の1334キロメートルにわたる国境地域を視察した後、ハンギョレに示した暫定的な結論だ。イ元長官は2023年9月下旬にも国境地域を視察しており、この11カ月の変化と継続を踏まえた意見だ。イ前長官は「新義州(シンウィジュ)と恵山(ヘサン)などの物流の増加傾向は朝中貿易が以前より活発になっていることを示している」とし、「水害復旧と農村の住宅建設は、国境地域全般で観察される現象」だと説明した。それとともに「かなりの資源の動員が必要であり、北朝鮮当局の危機管理能力と行政遂行能力が向上したと思われる」とし、「今、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権を含む一部の北朝鮮崩壊論は滑稽な主張だ」と力を入れて語った。 イ元長官は1996年から、公職に就いている時を除いて1年に1、2回、朝中国境地域を視察してきた国境踏査の開拓者であり生き証人だ。国境での観察と時系列の比較分析は、2018年12月以後、南北当局対話が途絶え民間の訪朝さえ不可能になった状況で、事実上唯一残された「北朝鮮の実情をうかがえる」方法だ。 「北朝鮮崩壊論は叶うことのない希望という名の拷問」だと語ったイ元長官は、このような説明を付け加えた。「(尹錫悦)政府の北朝鮮政策は、北朝鮮体制が弱体化しており充分倒せるという主観的な信念に基づいている。そのような認識は数十年間、現実となっていない。そのうえ、北朝鮮はロシアと軍事同盟を復元し、朝中関係も微妙な局面ではあるが、もう少し拡大する可能性がある。この30年余りの脱冷戦の歴史の中で、北朝鮮は今が経済と外交安全保障の面で最も良い戦略的環境にある」 イ元長官の自宅には、義父が書いてくれた「実事求是」(事実に基づいて真理を求めること)の扁額が飾られている。イ元長官が研究者としてはもちろん、公職にいる時も決して忘れず心に刻んでいたことだ。「事実」に基づかない生半可な判断はしないという態度だ。「今の北朝鮮崩壊論は滑稽な主張」という意見も、長い間続けてきた境界地域の視察から得た「多くの事実」に支えられている。 イ元長官が11カ月ぶりの朝中国境地域訪問で何よりも細心の注意を払ったのは、鴨緑江(アムノッカン)沿いの水害規模と復旧作業▽都市建設と農村住宅改良の幅と速度▽朝中交易・交流の行方の3つだ。 「金正恩体制」については「昨年に比べて今年は国家主導の開発と発展がある程度進んでいる印象を受けており、全体的に不安定な姿は見られなかった」と語った。スピードが速いわけではないが、「右肩上がり」の傾向にあるという。例えば「北側で最も奥地である鴨緑江上流の両江道の農村再開発事業は、昨年には5カ所に1カ所の割合だったが、今年は少なくとも半分または5カ所に3カ所の割合で観察された」とし、「約3~4年後には国境地域の農村の姿が完全に変わる可能性がある」と予想を示した。 イ・ジェフン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )