日本ハム新球場の建設費も 企業の成長資金は熱烈ファンが投資
NTT、個人株主が3倍以上に
「いざという時、個人投資家から社債などで資金調達を考える可能性がないとはいえない。NTTがどんな会社なのかを個人投資家に知っていてもらうのは、将来的な資金調達を考えても重要だ」。こう語るのはNTTの花木拓郎IR室長だ。 同社は23年7月、1株を25分割し、最低投資金額を40万円台から一気に1万円台に引き下げた。効果は驚くほどてきめんだった。買いやすくなったNTT株を多くの個人投資家が競うように買い込み、分割前の23年3月末に約71万人だった100株を保有する単元株主は、24年6月末には3倍以上の216万人と過去最高になった。 特に若年層の増加が著しい。20年12月に60歳以上が約8割だった株主の年齢構成は現在、20代以下が1割、30~40代が3割強を占めるまでに様変わりした。 東京証券取引所が22年に最低投資金額について「5万円以上50万円未満」を望ましいとし、企業に対応を求めたことで株式分割の流れが生まれ、23年度は前年度比6割増の191社が発表した。個人株主を急増させたNTTはその中で象徴的な事例となった。 個人株主の裾野拡大と若返りという課題に取り組んだNTTの花木氏。過去に面談を申し入れて教えを請うた企業には、ファン株主づくりで先を行くカゴメも含まれていたという。「200万人以上の個人株主の声を商品開発やサービスの向上に役立てたい」。花木氏は株主にファンになってもらうべく仕組みづくりに取りかかっている。 INTERVIEW 野村インベスター・リレーションズの千葉博文メディアプロデューサーに聞く 株主優待、認知度アップの第一歩 株主優待制度の導入企業が増加傾向にある。2024年6月時点で導入している企業は1489社あり、上場企業の3分の1に相当する。導入企業数は11年から19年にかけて増加したが、新型コロナウイルス禍に見舞われた20年から22年は純減に転じた。23、24年は6社ずつの純増で続いている。企業業績が上向いてきたこととの相関関係が見て取れる。 新NISA(少額投資非課税制度)によって投資家の裾野が広がったのは間違いない。そして投資の初心者にとって、株主優待は銘柄選びの最初の手掛かりとしてとっつきやすい。だから、株主優待を理由に株式を購入する投資家が増えれば、優待制度が比例して増えることも考えられる。 株主優待の効果は大きく2つある。ロイヤルティー(忠誠心)の高い顧客の増加と株価の下支えだ。平均では個人株主の6割以上は3年以上継続して株式を保有するので、準安定株主と見なすことができる。 株主優待を新設するのは、中堅クラスまでの企業が中心だ。食品メーカーに限ると導入企業は既に8割に上る。大きな宣伝効果もあり、顧客としてのロイヤルティーも高められるからだ。カゴメなどはその典型だ。 「コスト1億円以上」は10%未満 株主優待に関してはコストの負担がよく話題に上がる。一般には交際費や広告宣伝費に関連コストを計上している企業が多いようだ。ただ、当社の調査では1億円以上のコストをかけている企業は10%に満たない。4割強は1000万~5000万円で、500万円未満の企業も15%ある。 宣伝効果を考えれば、それほどのコストでもないだろう。それまで無名の企業でも、優待制度の新設でストップ高になる事例も珍しくない。認知度向上の手段としては有効に機能する。 ただし、導入する企業は目的と手段をはき違えないようにしたい。企業にとって真に大切なのは収益を出し、成長すること。株主優待は「自社の強みを伝える」「株主とのコミュニケーション」など目的意識を持って長期的な目線で取り組むIR活動の一手段であることを忘れてはならない。(談)
神田 啓晴