日本ハム新球場の建設費も 企業の成長資金は熱烈ファンが投資
丸井グループは自社のクレジットカード「エポスカード」の会員向けに22年から24年5月にかけて4度、デジタル社債を最低購入単位1万円で発行した。証券会社経由で販売する通常の社債と異なり、発行企業が個人に直接販売できるのもデジタル社債の特徴だ。その経験で見えたのは若い層から資金を集められる可能性だった。 22年のデジタル社債と同じ時期に証券会社経由で売り出した通常の社債(約13億円分)は1口100万円ということもあって、30代以下の購入者は人数ベースでわずか4%にとどまった。これに対し同年のデジタル社債は調達額こそ約1億円を2回と少額だったが、30代以下の比率が38%に達した。 「顧客のエンゲージメントの向上にも効果が見られた」とデジタル社債プロジェクトの担当者は話す。第1回のデジタル社債に申し込んだクレジットカードのゴールド会員は、社債申し込み後6カ月間のカード利用額が前年同期比で平均11万円増え、非申込者の3万円増を大きく上回った。社債で消費者と結びつくことが、資金調達だけでなく本業の収益にもプラスになることを示す成果だった。 ●本業のファンづくりにも一役 個人株主を「ファン株主」と呼び、かねて個人株主の獲得に力を入れていたカゴメ。個人株主の商品購入額は一般客の約10倍に上り、本業への貢献は大きい。そこで社債を新たな個人株主の呼び水として活用することにした。 同社は00年ごろから個人株主の拡大に力を入れ、足元では19万人以上と食品業界でトップ級の個人株主数を誇る。発行済み株式総数の実に54%を個人株主が保有する。ただし株主の高齢化という課題を抱えていた。 株式の保有期間が10年以上の株主が44%、5年以上~10年未満が27%で株主のロイヤリティーは高いが、70代以上が42%、60代が26%(いずれも2023年の同社株主優待アンケートより)と株主の高齢化が顕著だった。そこで、将来的に株を購入してくれる若年層を開拓する方策を探っていた。 そこで23年に発行したのがデジタル社債だ。1口10万円で利率は年0.2%。付帯する野菜ジュース15本(約4000円相当)の特典を加味すると、1口の購入なら4%程度に上がる。「若い投資家との接点創出とマーケティングへの効果を狙った」と財務経理部IRグループの武田周子課長は話す。思惑通り、社債を購入した約5500人の約8割を30~50代が占めた。 たとえ足元では資金調達の計画がなくても、企業が自社の「ファン」と呼べる個人投資家と株式や社債を通じて結びついておくことは、将来の資金調達の選択肢を広げるのに役立つ。個人投資家に安定株主として長く株式を持ってもらうことへの期待も、多くの企業に共通するポイントだ。