「ビザの有無にかかわらず、夫を愛したことに変わりはない」 スリランカ人男性の難民認定・在留特別許可を求める訴訟で原告の訴えが棄却
「夫婦が共同で暮らす権利」は十分に保護されていない
今年9月、小泉龍司法務大臣(当時)は、日本で生まれ育った在留資格のない外国人の子らのうち全体の8割を超える212人に在留特別許可を与えたことを明らかにした。日本政府は、外国籍の子どもの権利・利益については一定の配慮を示す姿勢を取っている。 一方、夫婦が共同で暮らすことの権利・利益については、国際人権法によって定められているにもかかわらず日本政府は十分な保護を与えていないという。 また、今回の判決については、裁判所がナヴィーンさんとなおみさんの婚姻関係の背景にある事情を考慮せず、「違法状態で築かれたもの」として保護の必要性を低く判断した点に問題がある、と弁護士らは指摘する。 なおみさんと出会った時点では、ナヴィーンさんには在留資格があった。そして、二人は出会った当初から惹かれあっていたという。 しかし、当時シングルマザーであったなおみさんは「子どものことが第一」「自分の恋愛をする前に、子どもをちゃんと育てなくては」との考えから、「子育てが終わる10年後に結婚しよう」と、ナヴィーンさんと約束した。そして、実際に10年以上、子育てを優先しながらナヴィーンさんとの交際を続けた。 つまり、もしなおみさんがナヴィーンさんと出会った直後に結婚していれば、婚姻関係は適法状態で築かれたとして、在留特別許可が認められていた可能性がある。 会見でナヴィーンさんは「『10年後に結婚する』と約束をした時点では、その後にこんな事態になるとはわからなかった」と語った。 「裁判所や入管、国には、結婚の価値を、もっと大事に考えてほしい」(ナヴィーンさん)
「夫婦が一緒にいてこその結婚生活」
なおみさんは「ビザがあろうとなかろうと、夫に惹かれて、愛したことに変わりはない。だから、ビザが切れた後にも交際を続けた」と語る。 「高望みをしているわけではない。夫に在留資格を与えていいただき、安心して普通の生活をしたいだけだ。 夫婦が一緒にいてこその結婚生活、離れ離れになることは考えられない。今後も夫とともに、日本で暮らしていきたい」(なおみさん) 在留特別許可に関わる訴訟では、裁判所は「法務大臣に広範な裁量がある」としながら、入管の判断を追認する場合が多いという。桐本弁護士はこの状況について「人権が劣位に置かれている」と指摘。今回の判決についても「ナヴィーンさんを救済しようとする意図が全く感じられなかった」と、裁判所を批判した。 2021年に出版された、作家の中島京子氏による小説『やさしい猫』(中央公論新社)では、シングルマザーの日本人女性とスリランカ人男性の恋愛・夫婦関係が描かれており、なおみさんとナヴィーンさんの境遇に類似しているという。同作中でもスリランカ人男性の在留資格を求める訴訟が行われているが、男性の訴えが認められる「ハッピーエンド」となった。 浦城弁護士は、フィクションと異なり現実ではナヴィーンさんにとって厳しい判決になったことを指摘しつつ、「裁判所が出した判決は、一人ひとりの日本国民が望んでいる結果なのか」と問いかけた。 原告側は控訴する意向だ。
弁護士JP編集部