”2050年までにキリスト再臨”を信じる人々がイスラエルを支持する理由とは?
クリスチャン・シオニズムとは何か
クリスチャン・シオニズムとは、文字通り、イスラエルによるパレスチナ地方の植民活動、国家建設を積極的に支持するキリスト教徒たちの運動である。現在クリスチャン・シオニストを主に構成するのは、先述の、聖書を文字通り信じる「福音派」というプロテスタントのグループである。彼らは聖書に記されていると彼らが信じる信念、つまりイスラエルの地をユダヤ人が支配すれば、キリストの再臨と世界の終末がもたらされ、キリスト教徒は救済され、非キリスト教徒(イスラム教徒やユダヤ教徒を含む)は全滅するという信念に動機づけられている。1948年のイスラエルの建国は、彼らにとって預言の成就の証であり、聖書に描かれた世界の終わり、つまりキリストの「再臨(Second Coming)」が近づいている兆候だった。実に米国の6割以上の福音派キリスト教徒が現在もイスラエル建国を預言の成就と捉えている。 「キリストが再びこの世にやってきて最後の審判が下される」という「再臨」や終末論を信じているということ自体、日本人の多くには異様なことに見えるかもしれないが、「再臨」や終末論自体はキリスト教の正統教義だ。問題はそれを「文字通りに」、歴史上の具体的な日時にイエス・キリストが天から降りてくると信じているか、「比喩的」に信じているかの違いにある。
イエス・キリストは2050年までに再臨する?
ラジオホストで福音派ハロルド・キャンピングは2011年5月21日に「再臨」と「携挙(rapture)」が起きると預言した。これは当日、アメリカで信じる人たちと信じない人たちがどのように行動したかを記録したAP通信の記録映像である。 Reaction after predicted end of the world fails to happen, AP通信, 2011年5月22日 今日では、カトリックや聖公会、リベラルなプロテスタント諸派は後者の立場を取っている。対して、文字通りの「再臨」が近々起こると信じる、前者の立場を取るのが、聖書を文字通りに信じる福音派であり、クリスチャン・シオニストである。神学的には、最終戦争やキリストの「文字通り」の世界支配といった黙示録的な世界観を信じるディスペンセーション(千年王国)主義者と、キリスト教が現実の政治を支配すべきだと考えるドミニオン主義者によって構成され、後者で現在勢力を広げているのが最近トランプ支持層として注目されているキリスト教ナショナリストたちや新使徒運動(NAR)に関わる人たちだ。 ピュー研究所による2010年の世論調査では、白人福音派の58%が、イエスが「おそらく」あるいは「間違いなく」2050年までに再臨すると答えた。現在、クリスチャン・シオニストたちは、昨年のハマスの奇襲から始まったイスラエルのパレスチナへの攻撃やヒズボラやフーシ派といった周辺諸国のイスラム原理主義者たちとの戦いに、聖書に記されていると彼らが信じる終末への兆候を読み取り、また暗殺事件を生き延びたトランプに「神の戦士」の姿を見出している。 クリスチャン・シオニストたちの終末論は、16世紀のヨーロッパにおけるプロテスタントにその起源を持つと言われる。個々人が聖書を読み、解釈することを重視するプロテスタンティズムでは、自ずと旧約聖書の「イスラエルの民」を改めて位置付け直す解釈が始まり、彼らのイマジネーションの中で離散したユダヤ人が約束の地に帰る可能性が浮上した。こうしたクリスチャン発のシオニズムは、その後、植民地主義を背景とする19世紀の英国と米国における「原理主義運動」の一部として政治運動として勢いを増した。ユダヤ人によるシオニズムの始まりは19世紀だとされるが、彼らよりも数十年も前に、シャフツベリー伯爵、ジョン・ネルソン・ダービー、ウィリアム・ブラックストンといったクリスチャン・シオニストたちが、終末論の予言を布教し、パレスチナにユダヤ人の祖国を創設するというアイデアを思い描いていたのである。英国のアーサー・バルフォアは、バルフォア宣言でパレスチナにおけるユダヤ人の故郷を約束した人物であるが、彼自身は著名なキリスト教シオニストであった。