日本も他人事ではいられない…自動車産業が傾いたドイツで「いま起きている」悲惨な現実
中国メーカーに「もうかなわない」
そこで多くの国民は、ギリギリまではガソリン車に乗ろうと考えた。合成燃料(e-ガソリン)の開発も盛んだし、ひょっとすると、粘っている間に政権が変わり、ガソリン車の復権があるかもしれない。 一方、中国のEV戦略は、今、まさに花開こうとしている。2023年、EVの売上台数の世界一は中国のBYD。中国国内では、新たに登録される車両の半分がすでにEVだという。 つまり、ドイツの自動車メーカーが、将来、いくら頑張っても、中国にEVを輸出することは考えにくい。さらにいうなら、ガソリン車も、中国では中国製がどんどんシェアを広げており、ドイツのガソリン車も、近々、お呼びではなくなるだろう。 思えば、VWは中国への進出が早かった。冷戦終了前の1984年、早々と中国に進出、上海フォルクスワーゲンを設立し、サンタナの現地生産を始めた。まだ、中国は貧しく、今日の経済発展など、誰も夢にも見なかった頃の話だ。そして、その後の40年間は、両国にとって輝かしいばかりのウィンウィン物語だった。VWがホームページに載せた中国における足跡には、「天安門事件」は書かれていない。 今やVWだけではなく、ほとんどの自動車メーカーが中国に製造部門を持っている。ドイツのメーカーはずっと、研究開発部門は中国には移転しないと主張していたが、今では頭脳部分も中国に移している。中国の技術が進んだため、囲い込んでおく理由がなくなったのかもしれない。 要するに、ドイツが育てたはずだった中国のメーカーは、ドイツを追い越してしまった。これは、全ガソリン車の3~4割近くを中国へ輸出してきたドイツの自動車メーカーにしてみれば、完全に死活問題だ。
ようやく事態の深刻さに気付いたドイツ国民
中国からあまりに多くのEVの洪水に業を煮やしたEUは、中国EVへの追加関税の導入を10月30日から開始。中国政府が不当な補助をしているというのがその理由で、今後5年、従来の関税率10%に、7.8~35.3%を上乗せし、最大45.3%の関税を掛けることとなる。 ただし、これにより、ドイツのメーカーがせっかく中国でEVを作っても、EUに輸入する際、価格的なメリットがなくなり、何のために中国に進出したのかがわからなくなる。 それどころか、中国がEUからの輸入車に報復関税をかけてきた場合、最大の被害を受けるのはドイツのメーカーなので、ひょっとすると、これは、他のEU国によるドイツ攻撃ではないかとさえ思えるほどだ。ドイツのメーカーは、すでに抜き差しならぬ状態に陥っている。 今ようやく、多くのドイツ人が事態の深刻さに気づき始めたが、すでに始まった大船の沈没を誰が救えるのか? ドイツでは、2月23日に前倒し総選挙となるが、脱炭素をドグマとする緑の党が再び政権に入れば、救済は無理だろう。 しかし現実として、全ての政党が、AfD(ドイツのための選択肢)を極右として退けている限り、緑の党抜きで過半数を占める連立政権を立てることはできない。かといって、AfDが単独で過半数を取ることもあり得ない。 つまり、悲しいかな、緑の党は再び与党入りするだろう。今、政治家は、国家の没落を尻目に、既得権益の保持に明け暮れている。 国民の我慢は、刻々と限界に近づいていると感じる。 【こちらも読む】いったいなぜ…「トヨタに学ぼう」日本車を絶賛する“ドイツのニュース番組”の不気味さ
川口 マーン 惠美(作家)