【対談】山田五郎と村上隆が、近現代の日本の美術史から読み解く「なぜ村上隆は嫌われるのか?」
「戦略」アレルギーを超えて、国際的な接合点を生む
村上:『SHOGUN 将軍』というDisney+でやっている全10話のドラマがあって、主演の真田広之は、これまでアジア人としてポリティカルコレクト的に問題があるような役をさせられ続けてきた。それが今回、俳優としてだけではなくプロデューサーとしても名を連ね、ハリウッドのお金と技術を使って日本文化を面白いかたちで表現できている。僕の場合、向こうで成功できたのは、彼らの舞台に立たせてもらったからっていうのが大きかったです。箱そのものが、まったくレベルが違うし、展示、プロモーションも違う。もし日本でだけスーパーフラットを発表しても、ここまで拡散はできなかったと思います。 山田: その舞台に立つには、やはり戦略は欠かせませんよね。 村上:はい。たとえばいま、K-POPがアメリカとかでワーッと盛り上がっていますが、あれは戦略的にやっていることは間違いありません。いまニューヨークのブルックリン美術館で開催中の「広重の名所江戸百景(feat. 村上隆)」で歌川広重とコラボした作品を出品していますが、それもアメリカの政治、ブルックリンっていう、ある種黒人が中心の文化圏の美術館で、日本人がどういうふうにできるのか、本当に細かく戦略は立てて、作品を設えました。 山田:日本の美術大学では、そういう戦略をちゃんと学生に教えているんですか。 村上:教えていません。 山田:なんで教えないんでしょうかね。 それがもう昔から疑問で。 村上:先生方が未体験なので知らないし、仮に教えても、わからないんじゃないですかね。僕に続く人が出てこないのは、興味もないし、面倒くさいし、金はかかるし、あんまり得することがないんですね。 山田:これは美術だけでなく映画やアニメやマンガでも同じですが、日本のクリエイターが海外市場に無関心でいられたのは、国内に充分な市場があったからだといわれています。でも、その国内市場がどんどん縮小してきているわけで、だからこそ政府もいまさらまたクール・ジャパンとか言いだしているわけですよね。その意味で、海外で成功した実績のある村上さんの戦略は、もっと評価されていい。 村上: パンデミック後、世界の価値観が変わりましたよね。僕、東日本大震災のときに引っ越して、京都に十数年住み暮らしていますが、東京との大きな違いは、京都は「マネードリブン」で動いてないんですね。「知りあいドリブン」っていうか、信用でもって物事を動かす。アメリカは野蛮な国だったがゆえにマネードリブンになった。僕もちょっとマネードリブンしすぎた部分もあったし、そうではないところにスライドしていきたいなっていう気持ちもあって。 山田:なんか、「いい人」になろうとしていませんか? 申し訳ありませんが、美術における歴史的文脈や戦略の重要性について、もっと多くの日本人アーティストに気づいてもらうためにも、村上さんにはまだまだ叩かれ続けてほしいです。
Mikako Sawada