BMW Z4 詳細データテスト 希少なMTで味わえる柔軟なエンジン 直感的でない可変ステアリング
はじめに
自動車業界では、イタリア語の車名はよく見えるというのが定説だ。もし、マセラティがGTサルーンをフォードアと銘打ったら、今ほどエキゾティックなクルマに思えただろうか?フェラーリのマネッティーノを単に小さなスイッチと呼んだら、積極的に触れたいものとなるだろうか?フィアットの小型車がタイプという名だったら、強くは印象に残らなかったかもしれない。 【写真】写真で見るBMW Z4とライバル (16枚) BMWは、同じようなことをドイツ語で試みた。今回テストするZ4は、ハントシャルターパックという仕様だ。ハントシャルターとは、ハンドシフター、すなわちマニュアルトランスミッションを意味する。登場から6年を経た現行Z4だが、6気筒モデルに6速MTを積むのはこれがはじめて。英国で販売されるBMWのMT車は、M2と218iグランクーペ、そしてこのZ4のみだ。 新車市場では3ペダルが激減しているだけに、追加導入は流れに沿わない決定だが、普通ではないのはそのことだけではない。このハントシャルターパックを選ぶと、スペックが限定されてしまうのだ。マット塗装のフローズン・ディープグリーンにブラウンレザーを用いるコニャック内装、グロスブラックのトリムという、テスト車と同じ仕様のみの設定なのである。 とにかくリスクを嫌う昨今の自動車業界にあって、ほかとは違うことをするメーカーは歓迎せずにいられない。とはいえ、それだけでクルマの良し悪しを決めないのがオートカーのロードテストだ。エンスージアスト向けとはいえ、単なるマニア受け物件ではなく、6年を経たドイツ製ロードスターのカンフル剤になりうるモデルなのかを、しっかり見極めていこう。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
G29こと3代目Z4は2018年に発売され、Z4としてもBMWとしても変化のときを迎えた。複雑で重いフォールディングハードトップを捨て、昔ながらのソフトトップへ回帰したのである。 また、Z3や初代Z4にあったクーペ仕様は用意されなかったが、これは兄弟車としてトヨタ・スープラが登場したからだ。スタイリングやインテリアは異なるが、BMW製のハードウェアをほぼ流用している。 そして、いずれもオーストリアのグラーツに居を構えるマグナ・シュタイアが生産を担当する。トヨタは直6モデルにMTを追加設定しており、BMWもこれにならうことが予想されていた。 スタイリングは、BMWとしては珍しく、1970年代のE12型5シリーズ以来の定番ともいえる横並びの4灯ヘッドライトを採用していない。クラムシェルボンネットとウェッジシェイプも、BMWの慣例から外れた要素だ。 その後、BMWが施したデザイン改修はほんのわずかで、2022年にキドニーグリルの形状を変更した程度。現在のBMWのラインナップにおいては、珍しいほど控えめなルックスだ。 ハントシャルターパックは、ベースとなるM40iと識別できるビジュアル要素が採用されている。内外装色以外で、まず目につくのがホイールだ。リアのみ20インチとなり、タイヤはフロントが255幅、リアが285幅のミシュラン・パイロット・スーパースポーツを履く。 サスペンションやディファレンシャル、スタビリティコントロールも専用チューン。ハードウェアはほとんどベース車と同じで、前後ともマルチリンクにコイルスプリングとアダプティブダンパーの組み合わせだ。ハントシャルターパックは、前後とも補助スプリングが装着され、フロントスタビライザーのクランプが補強されている。 電子制御LSDや、可変レシオのステアリングラックも装備。ダンパーとステアリング、ディファレンシャルのソフトウェアが再チューンされ、ハンドリングをよりシャープに仕立てている。 エンジンは手が入っていない。エントリーレベルのsドライブ20iは、おなじみB48型2.0L直4ターボガソリン、M40iには、こちらも慣れ親しんだB58型3.0L直6を搭載。いずれも、標準仕様は8速ATとの組み合わせだ。 新たなMTは、ギアセットとシャフトにM仕様のコンポーネンツを組み込んだモジュラーユニットで、B58エンジンに適合させ、Z4に合わせたギアのリンケージを備える。ギア比とファイナルは、M2のMT仕様と同じものだ。