有村架純、“悲劇のヒロイン”から“荒地に咲く花”へ 『花束みたいな恋をした』以降の変化
有村架純『花束みたいな恋をした』からの変化
2023年に配信されたNetflix映画『ちひろさん』では、海辺の街の小さなお弁当屋で働くちひろを演じた有村。ちひろは元風俗嬢で、詳しくは語られないが、どこか影のあるキャラクターだ。親しくしていたホームレスのおじさんが亡くなっているのを見つけ、人知れず遺体を埋葬するようなゾクッとした一面も。だけど、心に傷を負った人たちを大きな懐で受け止める不思議な包容力があり、有村はちひろが持つ陰と陽を絶妙なバランスで表現していた。 2024年に話題を呼んだ『海のはじまり』(フジテレビ系)で有村が演じた弥生は、主人公・夏(目黒蓮)の恋人。2人で幸せな日々を送っていたが、夏は大学時代に付き合っていた水季(古川琴音)の葬儀で、彼女が自分の子を産んでいたことを知る。水季の忘れ形見である海(泉谷星奈)の父親になろうとする夏を支える弥生には、かつて望まれない妊娠の末に産まないことを選んだ過去があった。その罪悪感から海の母親になろうとしていたが、最終的に夏と別れることを決意する。流れだけを聞くと不遇に思えるかもしれないが、物分かりの良い生き方を卒業し、夏のもとから去っていく姿は眩しく思えた。弥生は本作のもう一人の主人公と言っても過言ではなく、有村がその繊細な演技で記した成長譚に多くの人が目を奪われたのである。 そして、最たるは『さよならのつづき』で演じたさえ子だろう。2024年11月にNetflixで独占配信となった本作は、プロポーズを受けたその日に恋人の雄介(生田斗真)を交通事故で亡くしたヒロインのさえ子(有村架純)が、雄介の心臓を移植された成瀬(坂口健太郎)と出会い、その数奇な運命に翻弄されていく物語。正直、最初にあらすじを聞いた時は「また辛い役か」と辟易する気持ちがあった。しかし、実際に観てみると、有村が演じるさえ子には不思議と悲壮感がない。もちろん、心に傷を負ってはいるが、辛い時こそ仕事に邁進するエネルギッシュな女性なのだ。全くジメッとしておらず、成瀬に対してもまっすぐ向き合っていく。置かれた状況に反して明るく、「なるほど、これは新しい有村架純だ」と思わされた。 だけど、その打たれ強さは『花束みたいな恋をした』の絹にも感じるもので、有村にとって本作は一つのターニングポイントになったのではないだろうか。本作における有村は等身大の演技で、どこにでもいる若者を映し出している。冒頭で“共感必至”のラブストーリーと書いたが、なかには「よくわからなかった」という感想を抱く人もいるだろう。だが、心に刺さる人にはとことん刺さり、しばらく余韻から抜け出せなくなる作品だ。兎にも角にも、一度ご視聴を。
苫とり子