アメリカで流行する“痩せ薬”「オゼンピック」とは? ダイエットカルチャーの変遷
カリフォルニアに暮らすZ世代のライター、竹田ダニエルさん。この連載では、アメリカのZ世代的価値観と「心・体・性」にまつわるトレンドワードを切り口に、新しい世界が広がる内容をお届けします。 【画像】おすすめダイエットフード 今回はアメリカで移り変わるダイエットカルチャーとボディ・イメージについて。「ありのままの体を愛そう」というメッセージとともに広がった「ボディ・ポジティビティ」、今はそこから派生した「ボディ・ニュートラリティ」の考え方が徐々に受け入れられているといいます。また、新しい減量薬として注目を集める『オゼンピック』の危険性、過度なダイエットや摂食障害に陥らないために覚えておきたい「Food is Food」の考え方について伺いました。
ボディ・ポジティブからボディ・ニュートラルへ
ダニエルさん:アメリカでも日本でも、日々さまざまなダイエットカルチャーやフィットネストレンドが生まれていますよね。振り返ると2000年代はローカロリーとかファットフリーといった言葉をよく耳にしていましたが、今アメリカではカロリーを極端に制限することは不健康だという認識が広がりつつあります。一方で、ヘルシーで健康的な生活を意識するあまり、ハードな筋トレを毎日してプロテインを過剰に摂ったり、「炎症作用」のある食材等を厳密に避けたりする人もいて、そのように一見健康的に見えても、食事や体型に執着しているのもある種の摂食障害ではないかと指摘されているんです。 ――日本でもプロテインが配合されている商品が増えましたが、適量を超えて過剰に摂取しすぎるのは気になりますよね。 ダニエルさん:SNSでは、プロテインだけでなく「1日にスムージーとスープという液体ベースに少量フルーツしか食べない」とか「生の肉とバターしか食べない」みたいな極端な人も見かけます。エンゲージメント稼ぎのための炎上商法とも考えられますが、一時期前に流行ったジュースクレンズのように、バランスの取れた普通の食事ではなく風変わりなトレンド療法に振り回される人もいまだにたくさんいる。 ――こうしたダイエットトレンドが次々に生まれる背景には、どのような原因があると思いますか? ダニエルさん:長年、広告やSNSなどで痩せたモデルや俳優が起用されていて、“スリムな体型=キレイ”といった一つの美の基準が定着し、それを見た若い女性が過度なダイエットにハマってしまったり、摂食障害に陥ってしまうことはいまだに根強い社会問題です。アメリカはいろんな人種の人がいて、体格がそれぞれ違うので日本ほどではないものの、外見や容姿を批判する「ボディ・シェイミング」や外見至上主義の「ルッキズム」もいまだ根強く、ファットフォビア(肥満恐怖症、嫌悪症)も社会に染み付いてしまっています。 そんな中で近年は美の多様性が広がり、「太っていても痩せていてもどちらでもいい。自分の体を愛そう」という前向きなメッセージを込めたボディ・ポジティビティがムーブメントになりました。 ――企業の広告やファッションショー、雑誌でもさまざまな体型の人が起用されるようになってきましたよね。 ダニエルさん:アメリカではプラスサイズのバービーが発売されたり、シャンプーやボディソープで有名なブランド『Dove』が「セルフエスティーム・プロジェクト」を若者の自己肯定感を上げるための資料を配布したり、多様な体型のモデルを様々なブランドが起用したりと、大きな企業がこれまでもさまざまな取り組みを行ってきました。 ボディ・ポジティブは「細い=美しい」といったステレオタイプによる苦しみから解放されて、誰かと比べるのではなく、自分の基準で体型の見方を変え、前向きに受け止めようと伝えています。ただ、「自分の体を愛そう」というポジティブなメッセージをプレッシャーに感じる人もいました。長い間自分の体型やサイズを受け入れられなかった人にとって、「自分の体を愛そう」と言われてもなかなか難しい。そして、できないことでまた自信を失ってしまう。そうした中で、ボディ・ポジティブから派生した「ボディ・ニュートラル」という考え方が広がりつつあります。 ――ボディ・ポジティブとの違いはなんでしょうか? ダニエルさん:ボディ・ポジティブは自分の外見や体型に対するコンプレックスをポジティブに受け止めようとする考え方ですが、「ボディ・ニュートラル」は体のサイズや見た目をわざわざ祝福したり、無理に「愛する」こともを頑張らず、つまりニュートラルなスタンスを取る考え方です。ボディ・ポジティブのような前向きな気持ちを強要しないことが、長年ボディ・イメージに苦しめられてきた人たちに寄り添うものとして受け入れられています。体の機能や中身に主眼を置き、見た目に振り回されない価値観として革新的な可能性を持つと思います。