2024年金商法改正の成立
金商法改正の三つの柱
2024年5月15日、参議院本会議において、金融商品取引法(以下、金商法)の改正案が、可決・成立した。資本市場の規律に関する基本的な法律である金商法は、毎年のように改正されているが、今回の改正法の主要な柱は、①「資産運用立国」の実現へ向けた投資運用業者の参入規制見直し、②スタートアップ育成へ向けた非上場株式等の流通をめぐる規制見直し、③株式公開買付(TOB)・大量保有報告制度の見直し、の三つである。
投資運用業者の参入規制見直し
2021年10月に発足した岸田文雄政権は、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義の実現を経済政策の看板に掲げている。その一環として、家計資産等の運用を担う資産運用業の改革を進めるとして2023年9月に打ち出されたのが、日本の資産運用セクターを世界レベルのものにするという「資産運用立国」構想である。 今回の金商法改正の第一の柱とされたのは、この「資産運用立国」の実現へ向けて、資産運用業への国内外からの新規参入と競争の促進を図るための規制の見直しである。具体的には、投資運用業者から法令遵守や計理等のミドル・バックオフィス業務など投資運用関係業務を受託する事業者である投資運用関係業務受託業者の登録制度を新たに設けるとともに、投資運用関係業務受託業者に業務を委託する投資運用業者の新規参入にあたっての登録要件の緩和が図られることになった。 一般に、投資運用業者など金融商品取引業者は、内閣総理大臣(金融庁長官に権限を委任)の登録を受ける場合、登録申請の対象となるそれぞれの業務について、その執行について必要となる十分な知識および経験を有する役員または使用人を確保することが求められる。これに対して改正法は、投資運用関係業務受託業者に投資運用関係業務を委託する場合は、委託業務を適切に監督する能力を有する役員または使用人を確保していれば足りることとした(金商法29条の4第1号の2)。つまり、投資運用関係業務受託業者にミドル・バックオフィス業務を委託する場合は、そうした業務自体の知識・経験を有する役員や使用人がいなくても投資運用業に参入できることになる。 ここでいう投資運用関係業務委託業者とは、改正法の規定に基づいて内閣総理大臣の登録を受けた業者である。登録を受けた投資運用関係業務受託業者に対しては、忠実義務や誠実義務、善管注意義務を初めとする様々な行為規制が課され、法令に違反する行為を行った場合等には業務改善命令や業務停止命令を受けるなど、金融庁による監督に服する(金商法66条の76~66条の89)。