2024年金商法改正の成立
TOB規制の「3分の1ルール」見直し
金商法改正の第三の柱は、TOB・大量保有報告制度の見直しである。この点については、法改正が検討されることとなった背景や改正の方向性について検討した金融審議会のワーキング・グループが取りまとめた報告書(以下、WG報告書)の内容などを過去のコラムで紹介している(注2)。そこで以下では法改正の内容のうち、特に注目される点を簡潔に紹介したい。 今回の法改正では、上場会社等の株券等所有割合が30%超となるような株式等の買付け等(注3)を行う者に対して、取引所市場の内外を問わず、原則としてTOBの実施が義務づけられることとなった(金商法27条の2第1項1号)。取引所市場外での株式等の買付け等で、上場会社等の株券等所有割合が3分の1超となる場合にTOBの実施を義務づける、いわゆる「3分の1ルール」の適用範囲が、取引所市場内での買付けにも拡大されるとともに、TOB実施義務の発生する閾値が、3分の1から30%に引き下げられるのである。また、既に株券等所有割合が30%を超えている者が、新たに株式等の買付け等を行ってやはり30%超となる場合についても、原則としてTOBの実施が義務づけられることが明文で示された(金商法27条の2第1項1号)。
ほぼそのまま残る「5%ルール」
法改正では、従来の「3分の1ルール」が大幅に改められる一方、取引所市場外で60日間に10名超の多数の者から株式等を買付けて株券等所有割合が5%を超えることとなる場合や既に5%を超えている者が取引所市場外での新たな買付け等によって5%超となる場合にはTOBの実施を義務づけるという「5%ルール」については、従来の枠組みが基本的にはそのまま残されることとなった(金商法27条の2第1項2号)。 TOBの実施義務に係る「3分の1ルール」(法改正の施行後は「30%ルール」)が、取引所市場の内外を問わずに適用されるのに対して、「5%ルール」については、取引所市場の立会取引やPTSでの取引以外の市場外取引で、10名以上の者を相手に株式等の買付け等を行う「特定市場外買付け等」の場合にだけTOB義務が課されることになる。「5%ルール」の適用についてだけ、取引所市場の内外が区別されることに、違和感を覚える向きもあるかもしれない。 しかし、「3分の1ルール」の目的が、支配権取引の透明性の確保や支配権プレミアムの分配であり、この規制がなければ売却の機会が与えられなかったであろう少数株主に売却の機会を与えることを狙いとしているのに対し、「5%ルール」の目的は、買付け等に応じて株式等を売却する株主の保護を図ることであり、両ルールは趣旨・目的が異なる(注4)。WG報告書も、「5%ルール」は、「主として「1対多数」の取引構造により生じ得る提供圧力から(勧誘を受ける)株主を保護する点に着目したもの」であると説明している。