2024年金商法改正の成立
大量保有報告制度の見直し
WG報告書は、大量保有報告制度についても様々な見直しを行うよう提言しており、今回の法改正にはそれらを具体化する規定が盛り込まれている。WG報告書の提言の柱は、①金融商品取引業者等に対する緩和措置である特例報告制度の適用に影響する「重要提案行為等」の見直し、②共同保有者概念の見直し、③エクイティ・デリバティブ取引の取扱いの見直し、④大量保有報告書の提出遅延等に対する積極的な摘発、⑤株式保有割合の算出方法の見直し、⑥大量保有報告書等の「保有目的」等の記載内容・記載方法の明確化と見直し、といったものであった。これらのうち、とりわけ注目されるのは、①、②、③であろう。 第一の「重要提案行為等」の見直しについては、見直しの対象となる「重要提案行為等」が「発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として政令で定めるもの」と規定されている(金商法27条の26第1項)。したがって、その具体的な内容は今回の法改正からは読み取れず、今後の政令改正で明らかにされることになる。 第二の共同保有者概念の見直しをめぐっては、第一種金融商品取引業者または投資運用業者(証券会社やアセットマネジメント会社)や銀行など内閣府令で定める者が、共同して重要提案行為等を行うことを目的とせずに共同して議決権その他の権利を行使することを合意(政令で定める個別の権利行使ごとの合意に限る)している場合には、共同保有者から除かれることが明確に定められた(金商法27条の26第5項)。これは機関投資家による協働エンゲージメントへの萎縮効果を低減させるよう共同保有者概念を見直すというWG報告書の提言を具体化するものである。また、形式的共同保有者の範囲を画する「政令で定める特別の関係」から「親族関係」が明確に除かれることになった(金商法27条の26第6項)。 他方、WG報告書は、共同保有者の認定に係る立証の困難性を奇貨として、複数の者が暗黙裡に協調して株券等を取得していることが疑われる事例もあるとの指摘がされているとし、一定の外形的事実が存在する場合には共同保有者とみなす旨の規定を拡充すべきだともしている。この点については、今後行われる政令・内閣府令の改正で対応が図られることとなろう。 第三のエクイティ・デリバティブ取引の取扱いについては、「株券等に係るデリバティブ取引に係る権利を有する者(中略)であって、当該デリバティブ取引の相手方から当該株券等を取得する目的その他の政令で定める目的を有する者」が株券等の「保有者」となることが明確に定められ(金商法27条の23第3項3号)、かつその場合の株券等の数を算出する計算方法が内閣府令に定められることになった(金商法27条の23第3項)。