鉄分不足は世界で20億人以上、心臓病など深刻な悪影響も、日本女性の摂取量は推奨の6割
鉄分不足と心臓の健康
体が弱っている気がする、やけにだるい感じがするというだけでは、医師に診てもらうまでもないと思うかもしれないが、この問題を放置しておくと、後になって不必要な苦痛を味わうことになる。 こうした兆候を注意深く観察するのは極めて重要だと、米ベイラー医科大学教授のビケム・ボズカート氏は述べている。 糖尿病、高コレステロール、高血圧といった併存する病気と組み合わされた場合、鉄分不足は慢性疾患を発症するリスクをさらに高める。また、鉄分不足に似た症状、たとえば活力や運動・作業能力の低下は、心臓病の進行を示す目立った兆候の例でもある。 「心臓はポンプとして血液を全身に送り出すだけでなく、心臓自体の筋肉にも血液を供給します」とボズカート氏は言う。「たとえば、血管に詰まりがある人が鉄分不足や貧血に陥ると、心筋への血液の供給が困難になります」 一般に、心血管系の健康状態を評価する際、医師は患者の最高酸素摂取量(ピークVO2)を測定する。ピークVO2とは、激しい運動時に体が利用できる酸素量のことだ。 体の中で使える鉄分の量は、その人が持つヘモグロビンの量に影響を与える。ヘモグロビンが多いほど、酸素はより効率的に体内に運ばれる。鉄欠乏性貧血はヘモグロビンの生成を妨げるため、ピークVO2の低下につながる可能性がある。 これらの数値はまた、将来的な心臓病の発症リスクを予測するうえでも役立つ。入院患者のピークVO2は、どのような種類の治療を受けたらよいかを評価する際に重要な役割を果たし、たとえば心臓移植などの高度な救命措置を受けられるかどうかの判断にも関わってくる。 ボズカート氏によると、貧血の有無にかかわらず、心不全患者の鉄分不足を治療すると、生活の質と再入院率の両方が改善される証拠が示されているという。 一方、現在自宅で軽度の鉄欠乏性貧血の症状に対処している人の場合、治療のプロセスははるかに単純だ。専門家は、鉄分のサプリメントを摂取するか、鉄分を豊富に含む食事を取れば、全体的な健康状態を改善できるとしている。ただし、薬を飲む必要があるかどうかを判断するうえでは、かかりつけ医と相談し、自分に合ったプランを決めるのが最善だろう。
文=Tatyana Woodall/訳=北村京子