より多くの人が楽しめる“共遊玩具”とは
こんにちは、ニッポン放送アナウンサーの前島花音です。 過日のクリスマス、おもちゃ売り場へ足を運んだ方も多いと思いますが、おもちゃのパッケージに表示されている“盲導犬”や“うさぎ”のマークを見た事はありませんか? こういったマークがあるおもちゃは「共遊玩具」というもので、共に遊ぶと書いて、“共遊”玩具です。 【写真】誰でも遊べるよう工夫された”共遊玩具” この“共遊玩具”とはどんなおもちゃなのか、どうして開発されたのか、取材した模様をお伝えしていきます。
まず、共遊玩具とは何なのか。一般社団法人 日本玩具協会のホームぺージの説明には、「目や耳の不自由な子もそうでない子も、障害の有無にかかわらず、楽しく遊べるよう「配慮」が施された玩具で、一般市場向けに造られ販売されるものをいいます」と書かれています。 つまり、一言でいうと、「町のおもちゃ屋さんで売っているより多くの人が楽しめるおもちゃ」です。 日本玩具協会の審査に合格した共遊玩具のパッケージには、目の不自由な子どもたちも楽しめるように配慮されたおもちゃには「盲導犬マーク」、耳の不自由な子どもたちも楽しめるように配慮されたおもちゃには「うさぎマーク」が表示されています。 今回取材させて頂いたのは、大手玩具メーカーの株式会社タカラトミー。共遊玩具の開発を30年以上行っており、現在は300種類以上の共遊玩具を発売しています。 タカラトミーで共遊玩具が開発されるようになった最初のきっかけは、1980年。障害がある子どもたち専用のおもちゃをつくるための研究が開始されました。 市場が大変小さかったためそのようなおもちゃの開発は困難になり、取り組みを中止することも考えられたそうですが、この活動に真剣に取り組んでいた社員の想いから新たなアイデアが生まれました。 一般向けに販売するおもちゃに障害のある子どもたちも楽しく遊べるように工夫をしたら、より多くの人が楽しめるおもちゃが作れるのではないか、というアイデアです。これが共遊玩具誕生のきっかけとなりました。 ご自身も視覚障害者であり、タカラトミーで共遊玩具の開発や普及に携わっている高橋玲子さんにお話を伺いました。 「障害のある子どもたちだけのことを考えて専用のおもちゃを作れば、子どもたちのニーズに合ったとても良いものはできるかもしれませんが、市場が小さすぎるので事業としては成り立たず、結局売り続けることはできずに、本当に欲しい人たちのもとへ広く届けることはできない可能性が高くなってしまいます。 それであれば、一般向けの商品にできる限りの工夫をしてより多くの子どもたちが楽しめるものを世に出していったほうが良いのではないか、というのが共遊玩具の考え方です」 1990年、タカラトミーで共遊玩具として最初に開発されたのは「テトリス」です。盤ゲームになっていて、それぞれのブロックが立体的になっています。並べたブロックの位置を触って確かめてもずれてしまわないように作られ、目の見えない子供たちも手で状況を確認しながらゲームを楽しめるような工夫がされました。 高橋さんが最初に開発に携わった共遊玩具は、30種類の曲と様々なリズム楽器の音を鳴らして楽しむことができるカラオケマイクのおもちゃだったそうです。 今は会社全体の玩具開発に初期から関わり、一つでも多くの共遊玩具を送り出せるように開発担当者をサポートするほか、おもちゃの情報をより多くの人たちに伝える活動や、ユニバーサルデザインの商品を作りやすくするための仕組みづくりなど、様々な役割を担っています。 はじめは玩具開発の経験がないまま、障害当事者であるということだけで共遊玩具を作るためのアドバイスをしなければならなかったという高橋さん。なかなか提案が実現せずに悩んだあげく、実際に開発に携わらなければどういったアドバイスが有効なのかが分からないと感じ、入社3年目に幼児向け玩具の部門へ異動を希望しました。 玩具を開発するにあたり、高橋さんが最も苦労した点は、「安全性の担保と、子どもたちが楽しく扱いやすいおもちゃをつくることの両立」だと言います。 高橋さんが最初に開発したカラオケのおもちゃは、マイクにマッチ箱ほどの大きさのカートリッジをセットして遊ぶ仕組みになっていました。一つのカートリッジに10曲分のカラオケが入っていて、おもちゃには三つのカートリッジが付属しています。 そのカートリッジをなくしてしまったり、おもちゃ箱の奥に入り込んで探せなくなってしまったりするのを防ぐため、三つのカートリッジを紐でつないでまとめ、おもちゃ本体にもつないでおけるようにしたいと考えたのだそうです。 しかし、安全チェックの際、その紐の長さでは子どもの首に巻きつき事故につながる可能性があり、非常に危険なことが分かり、案は再検討に。共遊玩具であるかないかに関わらず、おもちゃに何か工夫をしようとしたときに、コストだけでなく安全の問題などで出来ないこともたくさんあるんだと痛感した最初の経験だったと仰っていました。 安全を担保しながら、子どもたちにとって、より扱いやすく、より楽しいおもちゃを作り上げていくために、おもちゃの開発担当者は日々奮闘しているのだと教えてくださいました。 現在高橋さんは共遊玩具をより広く知ってもらうため、大学などで学生さんたちに共遊玩具について講演すると共に、実際にタカラトミーのおもちゃを使いながら「どう工夫したらより多くの子どもたちが楽しめる玩具になるか」を参加者に考えて発表してもらうワークショップも行っています。 今回、実際に共遊玩具として発売されているおもちゃを手に取りながら、工夫について教えていただきました。