中国が想定する「最悪のシナリオ」、国連を中心とする国際秩序が「崩壊」する日
米国を凌駕した時点で台湾執政に関与
中長期的には、北京中央は中華人民共和国の国力が圧倒的に米国を凌駕した時点で、台湾執政に関与する流れを想定しています(シナリオA)。その場合は国連という組織と、国連中心の国際秩序が続くことが欠かせません。 そのため、国連での中国の影響力に疑問符が付くような行動には慎重になります。過激なアクションを起こさず、待てば待つほど、北京は台湾の執政への関与に軍事力を用いることなく、低コストで近づけると考えているからです。 宇露戦争が短期で収束し、国連中心の秩序が維持されるなら、ロシアが中国に依存することで経済的利得も増し、台湾危機をエスカレートさせる動機は低くなりましたが、侵攻開始から丸2年が過ぎ、イスラエルに対する決議でアメリカが連続して拒否権を行使するような状況にある現在、中国はここから国際秩序がどの方向に動くか注視しているはずです。
警戒する、もう一つのシナリオ
もう一つのシナリオは、国際秩序が国連中心からG7を中心とした新秩序にシフトすることです。その場合、台湾の国際的な位置づけが抜本的に変更され、それに伴って台湾人が何らかの外からの圧力(アメとムチ)や影響を受けて仮に独立を望むことになれば、北京中央にとっては平和裏に両岸問題を解決するという選択肢を失うことになり、内政コストと軍事コストが増します。これは北京中央が最も嫌い、警戒する事態です(シナリオB)。 宇露戦争の長期化で、国連主導の秩序が脆弱化する可能性がありました。宇露戦争発生時にG7各国が連携して新たな国際秩序の構築へ動けば、大きな転換となる可能性もあったのですが、今のところはその傾向は消失しています。仮に、今後何らかの大規模な地域紛争が発生し、国連主導の秩序が崩れれば、中国が長年育てた「資産」が埋没コスト化し、何よりも「1つの中国」原則が揺らぎます。 台湾執政に関与できる見込みが薄れると、中華人民共和国の憲法にも記される台湾統治への安定的道筋が崩れ、末端党員や大衆人民に党中央の無謬性(「党中央に失敗はない!」)を証明できなくなります。普通選挙がないからこそ、無謬性の崩壊は党による統治体制を根幹から揺るがし、正統性にイエローカードが突きつけられるわけです。