売春宿で働くアメリカ人親子…「45歳の新人」の母親は娘に誘われて売春婦になった
アメリカ50州のうちネバダのみで、経営が法的に認められている売春宿「Ranch」。1971年に合法化され、以後、客にも娼婦にもHIV感染者を一人も出すことなく歴史を刻んできた。今日、同州には19のRANCHが存在する。その一箇所で働いていたのは、45歳の“新人”女性と実の娘だった。アメリカ合衆国において、風俗で働く理由とは何なのか。ノンフィクション作家の林壮一氏が現地取材を行った。 【写真】アメリカ合法風俗で働く親子
売春宿で働く親子。母の生まれは田舎町
彼女は両手で名刺を持ち、折り目正しい挨拶をした。頭髪には白いものが目立つ。 45歳のローラリー・グレイは、Chicken Ranchで働き始めて4カ月目の“新人”だった。この商売を勧めたのは実の娘で、同じ時間帯に勤務していた。 母と娘はよく似たワンピースを着ており、撮影にも肩を寄せ合い、微笑みながら応じた。白と黒が複雑に入り混じった衣装は、親子でショッピングに出掛けて選んだそうだ。 まずは、母親をインタビューした。 「1979年8月1日にノースキャロライナ州の中央にある、ルイスバーグで生まれました。地平線までタバコ畑が続くような田舎街です。緑は豊かでしたが、山や海からは離れていましたね。共に、車で4時間くらいの場所です。2歳上の姉、5歳下の弟がいます。両親の話をするのは、辛いです……」 そう言うとローラリーは視線を落とし、十数秒間、沈黙した。 「父はまともに働いたことが無い人で、周囲のサポートが必要でした。母は刑務所に入っていたんです。出所後、アルコール依存症で長く治療を受けましたが、2009年に亡くなりました。 幼い頃、私たちきょうだいは、父方の祖父母や、叔父たちによって育てられました。 色々と親戚中をたらい回しにされましたね。幼いながらも、きょうだいでお互いを守り合うことが、生きるテーマになりました。そんな生活でも、私には獣医になる夢があったんです。タバコ畑の周囲に牧場があって、毎日のように馬や牛と戯れていました。犬も猫もヤギもニワトリも可愛かった。動物好きなんですよね。でも、将来の夢は、いつの間にか消えていました」 3人のきょうだいは、農場での労働力となった。 「14歳から、働きました。手伝いみたいなものでしたが。馬の世話をしましたね。じっくり付き合うと、こちらの愛情が伝わるんです。とてもやり甲斐を感じましたが、キャッシュを作らねばならないので、並行して近所のレストランに勤務したんです。 1993年のことでした。 毎日、テーブルの掃除、野菜刻み、そしてウェイトレス、トイレの掃除、多少、調理もしましたよ。1日に14時間の勤務、その合間に学校に行き、朝方や深夜に馬の世話。でも私、1997年にちゃんと高校を卒業したんです」