多くの人がじつは知らない「日本人の働き方」の意外な実態
多くの人が希望して短時間労働者に
非正規雇用やフリーランスといった働き方が広まる定年後。働き方が大きく変わっていくなかで労働時間も大きく変化する。総務省「労働力調査」から週労働時間の分布を取ると、歳を重ねるごとに短時間労働で働く人が増えることがわかる(図表1-19)。 50代後半においては、週労働時間が40時間以上の人が58.7%と最も多く、週30~39時間が18.9%、週20~29時間が11.1%、週1~19時間が11.4%となる。そして、定年後に目を向ければ、短時間労働者の割合は60歳を境にして急速に増えていくことが見て取れる。週1~19時間の労働者の割合は60代前半で15.4%と増えたあと、60代後半では26.0%、70代前半で32.9%と急増する。短時間労働者が増えた結果として、週40時間以上のフルタイムで働く人の割合は、60代後半時点で35.7%、70代前半時点で31.4%にまで下がる。定年後には短時間の働き方が急速に増えていくのである。 これは当然に高齢就業者が短時間労働を望んでいるからである。労働力調査(詳細集計)においては、回答者に対して労働時間の増減の希望を聞いており、もっと働きたいのに働けない人、働く時間を減らしたいのに減らせない人の実態把握を行っている。その結果も併せてみると、65歳以上の年齢区分では増減希望なしが83.9%と、ほかの年齢区分と比較して最も高い。一方、増加希望あり(6.1%)、減少希望あり(10.0%)は全年齢区分で最も低い値となっている。ちなみに最も希望通りの働き方ができていないのは25~34歳の年齢層で、増減希望なしが74.1%、増加希望ありが7.1%、減少希望ありが18.8%と、労働時間を減らしたいのに減らせない人が多い。 このようにしてみると、定年後の就業者は短い時間で無理なく働きたいという希望通りの働き方ができている年代となっていることがわかる。そして、なぜ定年後の就業者は短時間労働ができるのかと言えば、それはここまでの家計分析からもわかる通り、そこまで無理をして稼ぐ必要がないからである。 非正規雇用者に関しては、昨今の人手不足の影響もあり、賃金水準の上昇などその待遇改善も進んでいるところである。 特に、近年の法令改正で行われている社会保険の適用拡大の影響は大きい。厚生年金保険の加入要件が拡大されることで、国の年金財政の安定化に貢献するだけでなく、短期間かつ短時間の雇用によって自身の将来の年金受給額を上積みすることができる。定年後も非正規の仕事で無理なく働きながら厚生年金に加入を続け、かつ年金受給を繰り下げることによって、将来の年金を大きく増やすことも可能になる。 近年政府によって進められている非正規雇用者の処遇改善の動きは歓迎すべきものであり、今後さらにその取り組みが進むことが期待される。当然、その裏側では、非正規雇用者の処遇改善は事業主の負担増加につながっているわけであるが、労働力が希少な現代においては、たとえ短時間の雇用であっても非正規雇用者の社会保険料を払わないという企業の選択は、ますます許されなくなっていくだろう。 「非正規雇用」というとどうしても悪いイメージがつきまとうが、その用語の定義上、通常の労働者より短い時間で働く労働者は非正規雇用者に分類される。非正規雇用という働き方はすなわち、短い時間で働きたいという個人の希望にかなった働き方という側面もあるということだ。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)