多くの人がじつは知らない「日本人の働き方」の意外な実態
定年後には様々な仕事の選択肢がある
フリーランスといっても、長年企業に勤めてきた人にとって、その実態をイメージすることは難しい。そこで、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」を用いて、60歳以上でかつ自営(雇人なし)で働いている人の職種を分析してみるとどうなるか。 フリーランスとして就業する人の働き方は、会社で正規雇用者として働く人と比べると実に多種多様である。少し粗い分類ではあるが、これをあえて類型化したものが図表1-18である。 ここでは、フリーランスとして働く人の職種を3つのカテゴリーに分けている。まず第一は、国家資格が必要になる職種などが含まれる高度な専門性が必要とされる職種である。これは医師や弁護士、公認会計士、建築設計など、イメージとしては10年かあるいはそれを超える程度の勉学や実務経験を必要とする職種である。 このように業務独占資格でかつ取得難易度が高い資格を持つ人は、歳を取っても同じ仕事で働き続けやすい。これは専門性が高いからというのも理由の一つではあるが、その名の通りこれらの資格によって仕事が独占されているということが大きい。そうした規制が新規参入者にとっての参入障壁となり、厳しい競争を免れることができる。こうした資格は、法令改正などによる知識のアップデートをその都度しなければならないが、必要とされる知識が根本的に変わることはないという事情も大きいだろう。 第二は、一定の専門性を要する職種である。目安としては、技能の習得に数年程度は年月が必要となる職種である。これも実は結構なボリュームで存在している。個人で営業をする理美容師、建設や土木の世界で元請けの建設企業から依頼を受けて仕事をする一人親方、雑誌やwebメディアでライティングなどの仕事をしている人もいる。さらに、営業職であれば、企業と業務委託契約を結んで不動産・保険等の営業代行をするという選択肢もある。 雇人なし自営の仕事の一部には企業からの依頼をもとに行われる仕事も含まれている。雇用の責任を回避したい企業と、組織の論理に振り回されずに働きたい高年齢者との間で利害が一致した結果として、こうした働き方が普及しているのだろう。 これらの仕事に共通することは、独立して作業を行うことができるという側面があると同時に、その成果が見やすいという要素があることである。第二の区分は、第一の区分ほど新しく始めるにはハードルは高くないが、おそらくはもともとその仕事をしていた人が、働き方を変えて働いているというケースが大半であるみられる。 そして、最後の第三の区分が必ずしも高度な専門性を要しない職種である。この区分では定年退職した人などに就業機会を提供する「シルバー人材センター」が一定の役割を果たしている。 たとえば、農業・造園であれば、定年を機に帰農して大規模に農業を始めるのは技術の側面もしかり、地方のコミュニティへの適応もしかり、厳しい側面が多い。だが、小規模に自家農園を行うといったケースであったり、シルバー人材センターで請け負っている庭木の剪定といった仕事に関しては、長期の訓練なしで行っている人が大半である。 施設管理の仕事も定年後の一般的な職種として普及している。販売店員、販売促進は個人商店や、業務委託契約で販売スタッフとして働く人なども含まれているとみられる。ドライバーや宅配であれば、個人契約で行われているスポットでの施設送迎だとか、個人で車を出して行う宅配業務がある。個別指導講師に関しては、音楽、文芸、絵画などの個人指導であるとか、塾や放課後の補習の場で指導をするといった仕事がありうる。 雇用されることで保証される給与や社会保険の問題を踏まえると、現役時代には会社で雇用されながら働くことに一日の長があるといえる。そして、定年前には雇用される働き方を戦略的に選びつつも、定年を迎えようという時期をにらみながら独立に向けた準備を行い、定年後に自由な働き方を選ぶという選択は、良い選択になることも多い。高齢期は必ずしも雇用される必要はないのである。