「オーディションの手応えは全然」悪役演じた渡辺謙が語る『ライオン・キング:ムファサ』
オーデションの手応えは「全然(笑)」
──手ごたえはありました? 渡辺全然(笑)。まだ、キロスというキャラクターが自分に入っていなかったしね。でも海外のオーディションって、キャリアとかテクニックより、その役にジャストマッチする人を選ぶという意味合いのほうが大きいんです。だから、それほど重くは感じていませんでした。ダメでもそれは役に合わなかったというだけのことですから。 ──そもそもヴィラン(悪役)と位置付けられるキロス役でオファーがあったことについてはどんな風に感じました? 渡辺面白そうだと思いましたよ! 「白雪姫」にしても「シンデレラ」にしても「眠れる森の美女」にしても、ネガティブなものを背負っている人がいることで物語に深みが出てきますよね。しかも、ディズニーはヴィランをしっかり描いている。ただ、アニメーション映画って独特の難しさがあって……。あれ、そういえば、僕、アニメーションの吹替自体、今回が初めてかもしれない(笑)。 ──どうですか、吹替、またやってみたいですか? 渡辺面白いものがあればかな、作品次第です。楽しそうな仕事を楽しんでやりたいというのが僕のスタンスです。お引き受けした仕事に、一つ一つ丁寧に取り組んでいきたいと思っています。 ──改めて「超実写プレミアム吹替版」を観た感想を聞かせてください。 渡辺全編通して観て、本当に感動しました。ムファサが歌う恋の歌〈聞かせて〉は、「ウエスト・サイド・ストーリー」の〈マリア〉(マリアと出会い、恋に落ちたトニーがマリアのことを思い浮かべながら情熱的に歌うバラード)を彷彿とさせるし、若かりしムファサとタカが歌う〈ブラザー/君みたいな兄弟〉には、甘酸っぱい青春を感じます。それに、感情を揺さぶるさまざまなモーメントがあり、疾走感があります。約2時間の作品ですが、体感的にはその半分くらいに思いました。 後編【「どうすりゃいいんだよって思った」渡辺謙が『ライオン・キング:ムファサ』で悪役を演じて感じたこと】では、渡辺謙さんが敵役・キロスを演じて感じたことをお伝えします。謙さんが考える「ヴィラン」、そして『ライオン・キング:ムファサ』を観て考えたこととは。 (衣装協力 BRUNELLO CUCINELLI) ●『ライオン・キング:ムファサ』 前作『ライオン・キング』(2019)で、息子シンバを命がけで守った父ムファサ王。孤児であった彼の運命を変えたのは、ムファサの命を奪った“ヴィラン”スカーとの幼き日の出会い。血のつながりをこえて兄弟の絆でむすばれた彼らは、冷酷な敵ライオン・キロスから群れを守るために新天地を目指す旅に出るが……。「ずっと”兄弟”でいたかった」ムファサを偉大な王にした兄弟の絆に隠された、驚くべき秘密とは? ●公開情報 『ライオン・キング:ムファサ』 大ヒット公開中! 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパ 監督:バリー・ジェンキンス 字幕版声優:アーロン・ピエール、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ティファニー・ブーン、ドナルド・グローヴァー、ビヨンセ、マッツ・ミケルセン、ブルー・アイビー・カーター 超実写プレミアム吹替版声優:尾上右近、松田元太(Travis Japan)、渡辺謙 2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved. ●プロフィール 渡辺謙(わたなべ・けん) 1959年、新潟県生まれ。1978年、演劇集団「円」の研究生時に受けたオーディションで蜷川幸雄演出の舞台『下谷万年町物語』の主演の座を射止めた。83年に「未知なる反乱」でテレビデビュー、84年、夏目雅子の遺作である「瀬戸内少年野球団」で銀幕デビューを果たす。87年のNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」の主役に抜擢。大河ドラマ史上最高の平均視聴率39.7%をたたき出した。2003年にはトム・クルーズ主演の「ラスト サムライ」でハリウッドに初進出。第76回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされる。その後も、クリストファー・ノーラン監督の「バットマン ビギンズ」や「インセプション」、クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」などに出演してきた。日本映画では『明日の記憶』『沈まぬ太陽』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞。2015年にはブロードウェイ・ミュージカル『王様と私』の王様役でトニー賞にノミネートされた。阪神タイガースファンであることでもよく知られている。
長谷川 あや(ライター)