ECBのラガルド総裁の記者会見-Que será, será
金融政策の運営
ラガルド総裁は、インフレ率の減速が全体として前回(6月)の見通しに沿って推移している点を確認し、インフレ目標をタイムリーかつ安定的に達成するため25bpの利下げを決定したと説明した。また、質疑の中でラガルド総裁は、利下げの決定が全会一致であった点も指摘した。 質疑応答では、複数の記者が今回の利下げを50bpでなく25bpとした理由を取り上げ、景気が停滞する中で不十分ではないかとの考えを示した これに対しラガルド総裁は、政策運営の3つのクライテリア、つまり①インフレ見通し、②基調的インフレの動向、③金融政策効果の波及の3点に言及し、①と③については想定通りに推移しているが、②のうち国内発のインフレ圧力がやや高いと指摘した。その上で、25bp利上げはインフレ目標に向けた緩やかな収斂に整合的と説明した。 加えてラガルド総裁は、政策効果の波及には時間的なラグがある点を指摘し、現在でも既往の金融引締め効果が波及し続けているだけに、利下げの効果が波及する上でも同様な時間がかかるとの見方を示し、当面は政策効果の波及を監視することの重要性を示唆した。 一方で、複数の記者が今後の利上げ方針を質した。ラガルド総裁は「Que será, será」と発言した上で、今後の政策変更でもデータ依存、かつ毎回の理事会での議論に基づく方針を堅持する方針を確認し、利上げ幅やペースについての言及を避けた。 同様に別の記者が中立金利について質問したのに対しても、執行部の最近の分析では中立金利が以前より高いとの推計もみられるとした上で、正確な推計は困難との考えを確認した。その上で、ECBがインフレ目標のタイムリーな達成に確信が持てるまでは、十分に引き締め的な状況を維持する方針を確認した。 なお、3月の金融調節の見直しに基づき、今回の利下げからは預金ファシリティの金利とMRO金利のスプレッドが50bpでなく15bpへと縮小されたことに注意する必要がある。この間、MRO金利と貸出ファシリティの金利とのスプレッドは25bpで据え置かれている。 つまり、今回の政策変更により、貸出ファシリティの金利は4.50%→3.90%、MRO金利は4.25%→3.65%、預金ファシリティの金利は3.75%→3.50%となった。ECBが短期金利の下限としての預金ファシリティの金利を「政策金利」と位置付けている以上、今回の利下げは25bpとなるが、MRO金利のより大幅な低下は銀行貸出金利との関係でより大きな緩和効果を持つ可能性がある。 また、こうした技術的な変更によって、MROに参加しうる主体とそうでない主体との間で生じうる資金調達コストの乖離が縮小する点でも、ECBによる短期金利の誘導は円滑化しうる。 井上哲也(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 チーフシニア研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【井上哲也のReview on Central Banking】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
井上 哲也