JR東日本「消滅危機」ローカル線ランキング、合計赤字は757.7億円!1位は?
JR東日本が2019年度分から「ご利用の少ない線区の経営情報」を毎年開示しているのをご存じだろうか? その狙いは、「地域の方々に現状をご理解いただくとともに、持続可能な交通体系について建設的な議論をさせていただくため」という。最新の23年度分によると、36路線・72区間合計で757.7億円もの赤字を出しており、赤字ローカル線の存在が経営上の重荷となっているのは間違いない。本稿では、鉄道の費用対効果を示す「営業係数」を基にランキングを作成し解説する。「鉄道の利用が低迷している」と言うより「鉄道が役目を終えている」と言った方が適切かもしれない路線とは?(乗り物ライター 宮武和多哉) 【ランキングを見る】JR東日本「消滅危機」ローカル線ランキング〈2023年度分36路線72区間〉&地図で一目瞭然!消滅危機ローカル線マップ ● JR東日本の赤字ローカル72区間のうち もっとも費用対効果が悪かったのは? 10月29日にJR東日本が開示した資料をもとに、同社の鉄道路線、主にローカル線における費用対効果を示す「営業係数」のランキングを作成した。 営業係数とは、100円の営業収入を得るのにかかる費用を示す。収入/営業費用×100で算出。100なら収支は均衡、100より低いと黒字、100よりも高いと赤字だ。 今回の開示では、1日の乗客数の平均(輸送密度)が2000人未満の36路線・72区間についてのみ情報公開されている。それでは早速、JR東日本管内の「営業係数ワーストランキング」を見てみよう。
● 100円を得るために1万3580円を費やす路線 原因はアクアラインか?JRの無策か? 営業係数ワースト1位は久留里線・久留里駅~上総亀山駅間(千葉県)で、営業係数は「13580」だった(100円の営業収入を得るのに1万3580円を要する状態)。資料から詳細を確認すると、年間100万円の運賃収入を得ているが、2億3500万円を費やしている。 また、久留里線は残り区間(木更津駅~久留里駅間)の営業係数も「1107」であり、31.3kmの全線で9億円程度の赤字を出している。 この沿線は東京圏から70km~80km圏内にあり、東京方面への移動は内房線・木更津駅での乗り換え1回のみ。東京からの距離だけで見れば神奈川県の小田原や埼玉県の熊谷あたりと同等だ。にもかかわらず、鉄道が極端に利用されていないのはなぜか? その要因はまず、そもそも都市部への通勤に使われていないことにある。久留里線の沿線から東京圏への通勤手段は、1997年に開業した東京湾アクアラインを経由する高速バスに取って変わられている。時間や料金で高速バスの方が優位ということもあり、木更津から東京圏に向かう高速バスが久留里線・内房線を利用していた通勤客を奪ったのだ。 そのため、減便が続く久留里線・内房線ではなく、格安駐車場にクルマを停め、高速バスに乗り換える通勤手段がポピュラーになっている。高速バスは、開業時の56便から20年間で約500便にも増便しており、明らかに鉄道より便利になった。 もう一つの要因は、近代化が進んでおらず、移動手段として使えないことだ。長らく投資が行われておらず、交通系ICやバリアフリーなどが非対応。かつ、線路の状態もあって低速であり、全線の走破に1時間を要するほど遅い。さらに、線内の列車集中制御装置(CTC)も対応しておらず、ワンマン化ができないため人件費を削減できない。 久留里駅~上総亀山駅間の沿線では人口減少も激しく、小中学生の通学にはスクールバスを出すようになったため、この30数年間で同沿線の利用者が92%も減少している。加えて、並行する国道の改修によるクルマ利用者の増加、千葉市内へ直通する高速バスの並行などなど、他のローカル線と比べても利用者が増加する要素がない。 もはや、「鉄道の利用が低迷している」と言うより「鉄道が役目を終えている」と言った方が適切かもしれない。この区間はすでにJR東日本からバス転換に向けた協議の申し入れが始まっており、しばらくは沿線自治体との話し合いが続くだろう。 なお、この区間の前年度(22年度)の営業係数は「16821」であり、23年度の13580と比べると、劇的に経営が改善したように見える。しかし、実際の乗客数(平均通過人員)は54人(22年度)から64人(23年度)に増えただけで、経営状況の開示リストから外れる「1日2000人以上」には、あまりにも遠い。