なぜ自衛隊でハラスメント続く? 現役幹部自衛官の考察…解決のカギは「指揮」と「統御」のバランス?
■防衛大学校での人権教育の徹底が必要?
自衛官のハラスメント問題に取り組む弁護士グループ「自衛官のための人権弁護団」代表の佐藤博文弁護士は、自衛隊内のハラスメントについて、「集団的なところや組織的な隠蔽が見られる点が民間企業などと一線を画する。一般の社会とは違う常識が働いている」と分析する。 ハラスメントが続いていることについては、「五ノ井さんの事件を知って、ああいうことをしてはいけないとは理解していると思う。ただ、なぜダメなのか、人間の尊厳という根本を理解できていない隊員がいるのではないか」。その上で、卒業して所定の課程を経れば全員が幹部となり、高級幹部に当たる将官クラスのほとんどを輩出してきた防衛大学校の教育にハラスメントが絶えない要因のひとつがあるのではないかという。 「(前身の警察予備隊含め)自衛隊創設時、旧日本軍の正規将校が復帰し、幹部として活躍した。幹部養成のために設立された防衛大学校にも、上意下達のためには人の尊厳を軽んじるところや男尊女卑的な考えなど、旧日本軍の体質が受け継がれている」。それを踏まえ、防衛大学校での人権教育を徹底し、人の尊厳、相手を尊重することを教えることが、幹部自衛官の意識を変えることにつながり、自衛隊全体のハラスメント問題解決の糸口になるのではないかという。
■隊員の受け止め…「指揮」と「統御」が解決のヒント?
ハラスメントがあとを絶たない理由について、現役自衛官はどう受け止めているのか。 海上自衛隊のある幹部は、相談のしにくさが背景にあると指摘する。各部隊に相談員の隊員が置かれているが、いまなお相談に抵抗を感じる隊員が少なくないという。「外部の専門家の相談員を部隊において、相談できるようにすべき。ハラスメントをしてしまう幹部も相談できるかもしれない。自分だってハラスメントしてもされても部内には相談できない。相談と解決の繰り返しが上手く循環することで、ハラスメントも減っていくと思う」 また、幹部学校で指導経験のある航空自衛隊の幹部は、特にパワハラについて、幹部候補生などに教える「指揮」と「統御(とうぎょ)」の概念に背景があるのではないかと指摘する。 これは、部隊をいかに率いるかについて学ぶ過程で教わる概念で、「指揮」とは、絶対的な命令をもって部隊を動かすこと、「統御」(海上自衛隊などでは「統率」)とは、部下が積極的に指揮官の「指揮」に服そうとするような心理状態に置くことという。 極論すれば、「上官の命令を聞け!」と強制して命じるのが「指揮」で、「上官のためなら命をも差し出せる」ような指揮官への全幅の信頼がある状態が「統御」となる。このふたつをバランスよく併せもつのがよい指揮官だと教わるのだという。