「同僚に『業界暴露本でも描くの?』と言われた」52歳でファッションデザイナーから漫画家へ転身した林田もずる先生の仕事との向き合い方【インタビュー】
2024年1月、林田もずる先生によるお仕事漫画『ファッションのお仕事』がちばてつや賞一般部門準大賞を受賞。作者が当時53歳で現役のアパレルディレクターだったことで話題となった。 林田先生は現在アパレルの仕事はすべて休業し、新連載『アパレルドッグ』を「モーニング」で連載中。『ファッションのお仕事』のリメイク版となる本作は、国内大手の女性向けブランドで働くMD(マーチャンダイザー)の田中ソラトが、同期のデザイナーや新入社員の後輩と共に社運を賭けてメンズブランドの立ち上げに奔走するストーリー。 人生の半分以上をアパレル業界で生きてきた林田先生に、漫画家へ転身した経緯や、業界を描いた本作で伝えたい思いなどを伺った。
――53歳、現役アパレルディレクターがちばてつや賞準大賞を受賞ということで話題となりましたが、最近までデザインのお仕事をされていたんですか? 林田もずるさん(以下、林田):はい。今年(2024年)の2月に連載が決まるまでの約30年、アパレルの世界でデザイナーやディレクターとして働いていました。 ――漫画はいつから描いていたんですか? 林田:もともと小さい頃から絵を描くのが好きで、小・中学生の時はノートに漫画を描いていました。当時は高価な紙やペン、トーンを少ないお小遣いで買いながら「大変だなぁ」と思いながら描いていたのを覚えています。高校生になると、ダンスやバンドや演劇、おしゃれにも目覚めて、やりたいことがいっぱいできて、漫画を描くのをやめてしまいました。そのまま50歳になるまで、一切漫画は描いていませんでした。 ――長い年月を経て、再び漫画を描くようになったのはどうしてですか? 林田:コロナが流行り始めて、家族みんながずーっと家にいる状況の頃。当時中学1年生の娘が、入学祝いにもらった液晶タブレットで絵を描いていたんです。それを見て「ちょっとおもしろそうじゃん?」ということで自分も購入してみました。 当時はブランドのディレクションをしていて、デザイン画といわれるイメージを伝える女性のスタイルを描いていました。ずっと手書きで書いていたんですが、これを液タブで描いてみたんです。50歳になってデジタルを使いこなすなんて無理だろうと思っていたんですけど、これが使いやすくてすごく楽しくて。このツールがあれば、もう一回漫画が描けるかもしれないと思ったことがきっかけでした。 ――そこからは働きながら漫画家デビューを目指したんですね。 林田:漫画を描き始めたものの、本当に何も描けなくて。コマ割りなんてわからないし、トーンの貼り方もめちゃくちゃ。それでもなんとか読み切りの16ページを描いては編集部に持ち込んでアドバイスをもらいに行っていました。娘でもおかしくないくらいの年齢の編集部の方に見せては「絵が古い」とか「ストーリーが見えない」とかキツいお言葉をいただいて(笑)、泣きそうになりながら帰る……というのを続けてきました。 ――本業もある中で、それでも心折れずに続けることがすごいです。 林田:めちゃくちゃ落ち込みましたし、へこたれましたよ。でも、やっぱり漫画を描くことが楽しくて、何を言われても「こんな楽しいこと知っちゃったら、描かないわけにはいかないでしょ!」って感じでした。言われたことを全部受け取ろう、全部直すぞ!って気持ちで、ダメ出しを受けては家に帰って粛々と描き直したり、方向性を探っていろんなジャンルを描いてみたりしていました。 その頃、「林田さんはちゃんとストーリーを書く人になった方がいい」とアドバイスをもらったんです。それで自分が好きな雑誌に出していこうと決めて、モーニングの月例賞に応募しました。それを編集者の方が見つけて、担当についてくださり、私の漫画家人生がスタートしました。 ――『ファッションのお仕事』そして連載中の作品『アパレルドッグ』には、先生のアパレル業界での経験が描かれています。本作はアパレルブランドでMDとして働くソラトが主人公です。ファッションの漫画では珍しいMDの仕事をテーマにした理由は? 林田:私自身がデザイナー、ディレクターとして働いてきた時に、常に隣にいてくれる相棒が「MD」の人たちでした。企画・販売計画・売上を管理するブレーン的存在である彼らはすべてを準備して段取りを決める学級委員長のような役割なんです。彼らの仕事は目立たないけど、一番重要。そんな私の中のイメージをメインにしたいと思っていました。 また、デザイナーの仕事は服飾系の専門学校やアパレル系のような特殊な学校を卒業した人が多いと思うんですが、MD職はそれ以外の人もたくさんいるので、主人公としての共感性も高いのかなと考えています。
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