「同僚に『業界暴露本でも描くの?』と言われた」52歳でファッションデザイナーから漫画家へ転身した林田もずる先生の仕事との向き合い方【インタビュー】
――たしかに、ファッション業界のお話ではありますが、描かれているのは仕事に対する情熱と苦労、そして成長。骨太なお仕事漫画なので、ファッションに興味がない人でも楽しく読める作品になっています。 林田:ファッション業界って、とにかくキラキラしていておしゃれで華やかって思われることが多いんですが、実際は地味で真面目でコツコツとやっている。そういうギャップを会社に入った時に感じたんです。緻密なコスト計算や企画、分析など、もう本当にひとつひとつが大事に作られているんです。だからファッション業界の漫画だけど、そういう真面目で地味な裏側を丁寧に描いている作品があってもいいんじゃないかと思ったんです。 ――先生がこの作品で一番伝えたい思いはなんですか? 林田:一言で言えば、「ファッションって楽しいよ!」ってことですかね。いまの日本では裸では生活できないけど、おしゃれをしなくても生きていける。真っ白い布でも本来なにも困らないはずだけど、形を変えてみたり、色を入れたり、素材を変えたり、デザインを加えたり、季節感を入れたり。そんな繊細なこだわりや思いが詰まっているのが洋服なんです。だから、裏側を少しでも知ることで、洋服を選ぶ楽しさを伝えたいという思いがひとつ。 あとは、この作品を読んで、洋服に関わることって楽しそう、ファッション業界に就職したいっていう人が一人でも増えたら嬉しいですね。かつての同僚には「暴露本でも描くの?」と言われましたが、そんなつもりは一切なく(笑)、長年勤めてきたファッション業界への恩返しの気持ちで描いています。 ――林田先生も、主人公のソラトも、ずっと好きだったことを仕事にしていますが、好きなことを仕事にして、さらにそれを長く続けるにはどうしたらいいんでしょうか? 林田:せっかく見つけた好きなものには、どんな形でも関われることが理想だとは思います。ファッション関係といってもたくさんの仕事があるように、好きなことに少しでも関われる仕事を見つけられたらいいですよね。でもある程度続けていると、どんなに好きなことでも、お金と仕事のバランスや、やりがいに「あれ?」って感じたり、飽きたりすることって絶対あるんですよ。ここをどう乗り切るかが大切な気がしています。 もちろん体や心を壊してまで続けないでほしいですが、やりたいこと、いまの仕事に対して少しでも楽しさ、ラクさ、安心感、やりがい、お金、好きな人がいる、などなんでもいいからひとついいところを見つけられたら、そこを大切にしてほしいと思います。違う角度で見るとか、場所を変えるとか、私自身も気持ちや考え方を変えながら、試行錯誤して続けてきました。 絵を描くことが好きという思いを大切にし続け、アパレル業界から漫画家へ転職した林田もずる先生。先生の言葉、そして作品から、好きなこと、情熱をかけられることに対しての関わり方は無限にあるということを教えてもらった。 取材・文=宮原未来
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