ル・コルビュジエ設計「美しい街」住民たちの苦難 エリートも住まう「緑豊かな都市」の見えざる敵
パンデミックが去りはじめ、公共の場での衛生措置が少しずつ解かれていく中、シンはアレルギー発作の発生率に対するマスク着用の効果を測定する科学的研究を計画しようと考えている。 ■カビやキノコに対するアレルギー 一方、患者たちにパンデミックが与えた負の影響は、カビやダニなどに対する室内のアレルギーを抱える人々の症状が悪化したことだ。どうやら、アレルギーに対しては勝利などというものはなさそうだ。たとえ外の空気が一時的に澄んだ時でさえも。
実は、シンが最も多く診るアレルギーの1つは真菌〔カビやキノコ〕に対するアレルギーだ。彼女の担当患者のうち、コントロール不良〔症状の悪化や発作の頻発など、抑制がうまく効いていない状態〕の喘息を抱える患者のおよそ20%が、やがてアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)という重篤な肺疾患を発症する。 ABPAは珍しい疾患であるものの、コントロール不良の喘息患者はよりこの疾患にかかりやすく、アスペルギルス属(世界全体でこれまでに837種が発見されている)の真菌のうち複数種に感作されるようになる。
「ABPAはとても嫌な疾患です」とシンは言う。「喘息をうんと悪化させてしまうからです。肺を破壊してしまいます。単なる喘息ではそんなことにはなりません」。 そうなるのは真菌が過剰増殖してしまうせいだ。シンは増加した工事、不適切な農業慣習、そして徐々に変動する気候を、チャンディガール内外でのカビ胞子増加の背景として指摘する。 真菌は比較的湿った、暖かい環境下で繁殖する。そして、チャンディガール市内で新たに行われている多くの工事の現場が、かつて農地だった、地下水位の高い場所にある。
「こうして作られる比較的新しい家々は皆、湿気の問題を抱えています」とシンは言う。チャンディガールのあるインド北部では、心配すべきチリダニはあまり多くない──彼女の患者たちにとってはありがたいことだ。 だが、もっと温暖なインド南部では、患者たちが真菌、そして増加したチリダニの両方にさらされているのだという─―喘息とABPAを招く破滅的な組み合わせだ。そして不運なことに、ABPAには良い治療法がない。