トニー・ブレア英元首相が語る「中東和平への道」【ニューズウィーク誌独占インタビュー】
ガザ戦争、イラン、米大統領選、中国、ロシア、ウクライナ、国連......精力的に活動を続ける元英首相がいま考えること
イランは「中東の不安定の源」だ──元イギリス首相のトニー・ブレアは本誌のインタビューでそう語った。ブレアによれば、中東地域に安定をもたらす上でカギを握るのは、宗教的寛容がイスラム主義に勝るようにすることだという。【ナンシー・クーパー(ニューズウィーク誌グローバル編集長)、クリストファー・ロバーツ(デジタル出版担当副社長)、バーニー・ヘンダーソン(コンテンツ・ディレクター)】 【ニューズウィーク誌トニー・ブレア英元首相インタビューの映像】 その点、イランはパレスチナのイスラム組織ハマスやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなどの代理勢力を通じて革命を輸出しようとしていると、ブレアは批判する。 この2つの武装勢力は、昨年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃──ナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)以降で最も多くのユダヤ人の命が失われた出来事である──の後、イスラエルによる激しい攻撃の標的になっている。 ブレアは、1994年にイギリス労働党の党首になり、97年に首相に就任。その後、2007年まで首相を務めた。在任中は、03年のイラク戦争にイギリス軍を投入した決定に関して国内外で批判を浴びた。 首相退任後は、イスラエルとパレスチナの和平仲介を目指す「中東カルテット」(国連、アメリカ、EU、ロシアの4者で構成)の特使を15年まで務めた。 16年には、「トニー・ブレア・グローバル・チェンジ研究所」という非営利団体を設立。世界で拡大しつつある権威主義的なポピュリズムに抗することが目的だという。この9月に上梓した新著『リーダーシップについて(On Leadership)』では、自身の経験を基に今日のリーダーに向けた指南をつづっている。 本誌グローバル編集長のナンシー・クーパー、デジタル出版担当副社長のクリストファー・ロバーツ、コンテンツ・ディレクターのバーニー・ヘンダーソンが、米大統領選が間近に迫っていた10月、ロンドンでブレアに話を聞いた(インタビューの内容には、誌面の制約と明瞭性の確保のために編集を加えてある)。 ──あなたは最近、中東和平は実現可能だと語っている。その考えは現時点でも変わっていないか。 変わっていない。私は数週間前にもイスラエルを訪れた。首相退任後で271回目だと思う。私は(中東を)とてもよく訪れている。こうしたことを25年以上続けてきた。 このテーマは、2つの異なる視点で見るべきだと思う。まず、パレスチナ自治区ガザやレバノン、そしてイランなど、目の前の危機に目を向けなくてはならない。そしてその上で、「中東の全体像はどうなっているか」を問う必要がある。中東に希望があるかどうかは、そうした全体像次第だからだ。 その全体像で重要なのは、中東の国々が宗教的寛容性のある社会に転換できるかどうかだと思う。宗教的寛容性のある社会とは、政治と宗教を一体化させない社会のことだ。 もう1つ重要なのは、近代的な経済を築けるかどうか。若い世代が経済面で現代世界の一員だと感じることができるようにし、ルールに基づく、活力ある経済をつくり、起業家精神の持ち主がビジネスを始めて成功できるようにするべきなのだ。