トニー・ブレア英元首相が語る「中東和平への道」【ニューズウィーク誌独占インタビュー】
イスラム主義は、宗教を政治イデオロギーに転換する考え
いま中東の至る所で、こうしたことをめぐる戦いが続いている。いつも言っていることだが、この点に関してはイスラムとイスラム主義を区別して考えなくてはならない。イスラムは宗教だが、イスラム主義は、宗教を政治イデオロギーに転換する考え方だ。そのような政治イデオロギーは必然的に、全体主義的で、排他的で、基本的に経済の面で遅れたものになる。 最終的には、人間の精神が中東を近代化に向けて突き動かすだろうと、私は考えている。問題は、そうした動きを後押しするために欧米ができることはあるのかという点だ。近代化を推進しようとする勢力を支援すること──それがわれわれの行うべきことだと思う。 イランの影響力も明確に認識する必要がある。(イスラム教シーア派の)イランとスンニ派のムスリム同胞団が協力し合うことなど、本来はあり得ない。ところが、欧米との戦いでは両者が足並みをそろえる。 ──あなたの著書では、中国とロシアが連携を強めている結果、国連が機能不全に陥っていると記している。国連の未来はどうなると思うか。国連が以前のような影響力を取り戻すことはできるのか。 私は中国を孤立させようとしたり、中国との関わりを断とうとしたりすることには反対していた。中国には、超大国になり、世界の舞台で経済と政治の両面で影響力を振るう権利が全面的にあると思うからだ。 問題は、どうしてそんな行動を取ったのか私には理解できないのだが、中国がロシア、イラン、北朝鮮と連携したことだ。このグループに加わる国が続々と登場することなどあってはならない。中国がそうした選択をした結果、国連では(安全保障理事会の)2つの常任理事国がほかの3つの常任理事国と対立する図式が出来上がってしまった。 私が思うに、中国を孤立させることができない、そして孤立させるべきではない理由は、中国には影響力を行使する権利があること、そして、中国の力が必要とされる問題がいくつもあるという点にある。 具体的には、気候変動や世界規模の公衆衛生問題、経済、そして(ロシアやイラン、北朝鮮などの)グループのほかの国々の行動をコントロールすることなどだ。 とはいえ、このような政治的な対立がある状況で国連が機能できるとは考えにくい。 ただ、中国についてはおおらかな目で見守る必要もあると思う。49年の建国以来、中国は大きな変貌を遂げてきた。現在に至るまでの道のりは一直線ではなかったのだ。共産党が何もかも動かそうとした時期もあれば、文化大革命もあった。改革開放の時代もあった。 私が今、中国の指導者だったとしても、今後に向けてどのような戦略を取るのが正しいのか確信を持てずにいるだろう。中国は偉大な文明を持ち、非常に優秀な人材がいる。欧米から孤立することが、中国にとって本当に利益になるのか。 欧米にとって重要なのは、中国とのコミュニケーションを維持すること、そして中国の立場になって世界を見ることだと思う。全てを欧米の視点で解釈するのは危険だ。 ──あなたはロシアのウラジーミル・プーチン大統領にどう対処したのか。欧米は今、どのようなアプローチを取るべきなのか。 個人的には、プーチンは昔と変わったと思う。私が初めて会ったときのプーチンは、とてもオープンで、欧米と関係を築きたがっていた。ロシアでさまざまな国際会談が開かれたのも、ヨーロッパに開かれたサンクトペテルブルクだった。 当時は決まって、現代の大国ロシアの世界における位置付けが話題になった。ロシアがEUに加入することの可能性さえ話題になった。ロシアはNATO首脳会議に招かれていたし、G7はロシアも加えたG8だった。私の首相退任時もG8だった。従って、欧米がロシアを仲間外れにして、孤立させようとしたという主張は誤りだ。むしろわれわれはいつも、ロシアを欧米に縛り付けておく方法を考えていた。 だが、最終的にプーチンは経済の近代化を断念して、ナショナリズムを選んだ。経済改革に行き詰まった国は、たいていそういう道を選ぶものだ。さらにプーチンは、ロシア帝国の復活を考えるようになった。そんなことは不可能なのだが。ウクライナは、そんなロシアに同調することもできた(がしなかった)。プーチンにしてみれば、どうしてなんだと思っただろう。 ──ウクライナは勝てるのか。 「勝つ」をどう定義するかによる。何より重要なのは、この戦争を、ロシアの侵略に報いるような形で終わらせないことだ。従って、(ロシアとウクライナが何らかの)合意を生み出せるように、欧米諸国がウクライナにあらゆる支援をすることが重要だと思う。 第1次、第2次大戦のような(勝者と敗者が明確になる形の)終わり方にはならないだろう。そのことが分かっていれば、何らかの合意を生み出せるだろう。ただ、その交渉をウクライナが強い立場で進められることが重要であり、だからこそわれわれはウクライナを支援しなければならない。 ──米大統領候補討論会で、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領は、アメリカはウクライナの勝利を望んでいると述べたが、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領は明言しなかった。彼は間違っているのか。 今後によるだろう。ただ、ロシアが(ウクライナとの戦争に)勝ったと思わせるような終わらせ方を望むアメリカ大統領はいないだろう。そんなことになれば、アメリカのパワーに対する中国の見方にも大きな影響を与える。 (ハリスとトランプの)どちらに勝ってほしいか、あるいはアメリカの選挙についてどう思うかと聞くつもりなら、やめてほしい。私は話したくない。どうなるかは誰にも分からない。 それにどちらが勝ったとしても、イギリスの首相はその人物と協力していくしかない。元首相も同じだ。私がアメリカの歴代大統領について学んだことは、選挙戦での発言ではなく、実際に何をしたかによって評価するべきだということだ。