金融政策に頼らずとも「物価目標2%」は達成できる そのトリックとは?
日銀は28~29日に開いた金融政策決定会合で、追加金融緩和を決定しました。現行の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」をさらに推し進めることになります。市場関係者の大方の予想を裏切らない結果となりましたが、問題はこれからです。この追加緩和によって、「2%の物価目標」が達成もしくは少しでも近づける足掛かりとなるのでしょうか? しかし、物価目標達成のプロセスには、金融政策よりも容易に実現可能なトリックがあるそうです。その手法について、第一生命経済研究所の主任エコノミスト、藤代宏一さんが解説します。
物価目標2%未達成は、世界経済のせいにしておけば
日銀は2%の物価目標が達成できず苦労を強いられています。黒田総裁の下で打ち出された3度の大胆な金融緩和策にもかかわらず、日本の物価は2%どころかマイナス圏にあり、2013年4月の段階では2年以内とされていた目標の達成時期は幾度にわたって後ろ倒しされています。 この間、原油安という日銀にとってはどうしようもない不運に見舞われたことは事実ですが、このまま物価目標の達成時期の後ろ倒しを繰り返すのも問題です。日銀としては、残り少ない手段で何とか物価目標に近づきたいところですが、日本の物価は世界景気の影響を受ける要素も多分にあるため、(日銀の力が及ばない)世界経済の回復も必要になります。 しかしながら、世界経済を見渡すと、頼みの綱であった米国経済にかげりがみられるほか、欧州も英国の欧州連合(EU)離脱問題があり課題山積、新興国も相変わらずもたついており、日本の物価を取り巻く状況は芳しくありません。物価は”経済の体温”ですから、海外経済が勢いづくと世界的に物価が上昇しやすくなり、日本の物価も海外からの追い風を受けて上昇するのですが、目下のところそうした見通しは描きにくくなっているのが実状です。物価目標の達成は「万事休す」なのでしょうか?
難しいと思われている物価目標達成が可能になるトリックとは?
そうした厳しい状況ではありますが、ちょっとしたトリックを使うことによって、2%の物価目標の達成に大きく前進することできます。実際、そのトリックを過去に使っていれば、2%の物価目標が達成されていた時期がありましたし、現在でもそのトリックを使えば「物価は着実に上昇している」と主張することができます。結論を先取りすると、そのトリックとは、消費者物価指数(CPI)に採用されている品目で下落しているものを可能な限り除くというものです。 今現在、日銀が事実上の物価目標として採用しているのはCPIから生鮮食品を除いたものです(いわゆるコア物価)。天候など自然界の影響を受ける生鮮食品の物価変動は、金融政策および景気との関係が希薄であるため、それを除くべきとの理解に基づきます。それと類似の議論で、エネルギー物価を除くことも一般的です。 2014年後半以降の原油安がまさにそうであったように資源価格の変動は一国の中央銀行がコントロールできるものではないから、それを除いて議論すべきとの考えです。ちなみに、生鮮食品とエネルギーを除いたベースの物価(いわゆるコアコア物価)は直近の6月でも前年比+0.4%とプラス圏を維持しており、コア物価が前年比▲0.5%と大幅なマイナスに陥っているのとは対称的な動きとなっています。