大赤字の上場企業で社長が報酬を「月1億円」に増額!?横領、パワハラ、会社の私物化…大暴走が招いた“驚きの結末”とは
今年8月、会計専門家や投資家たちを驚愕させた、ある上場企業の「社長解任」騒動をご存じだろうか。解任された前社長は、経営不振にもかかわらず自身の報酬を「1億円」に増額。また、不正と思われる送金やパワハラなども認められたという。上場企業で起こったあり得ない事件の内容とは。(公認会計士 白井敬祐) 【この記事の画像を見る】 ● 役員報酬を「月1億円」に増額… 赤字企業の社長が取った驚愕の行動 横領、パワハラ、会社の私物化――。上場企業で信じがたい事件が次々と明るみになりました。 騒動の舞台となったのは、東証スタンダード市場に上場するエルアイイーエイチ。食品流通事業などを手掛ける企業です。24年8月、同社が公表した「社長交代に関するお知らせ」の内容は、会計専門家や投資家を驚かせました。 それは、前社長の福村康廣氏に問題行動があったことを理由として、福村氏を代表取締役から解任し、社長を交代するというものでした。そして、そこで挙げられた問題とは、「多額の営業赤字を計上する状況の中、自分の役員報酬を月額1億円に不適切に引き上げようとする」「取締役会の承認を経ずに、会社の口座から12億円を勝手に送金する」さらには、「他の取締役に対するパワハラ」――など、上場企業で起こった出来事としては信じられない内容の数々だったのです。 いったい何が原因で、このような問題が起こってしまったのでしょうか。上場企業のガバナンス崩壊を象徴する事件の経緯を見ていきましょう。 ● 明らかになった「あり得ない事件」の数々 問題行動が起こった経緯とは? 先述の通り、エルアイイーエイチは、経営状態の悪化が深刻な状況でした。2023年3月期には2100万円の営業赤字を計上し、翌24年3月期にはその額が15億円にまで膨れ上がり、資金繰りは極度に悪化していました。
同社が設置した外部専門家で構成されるガバナンス委員会の調査報告書によると、このような状況下で、前社長は以下の重大な問題行為をおこなっていたといいます。 (1)勝手に役員報酬を増額 経営悪化が続く中、23年度に年額2300万円と設定されていた前社長の役員報酬は、24年4月に月額4000万円、さらに同年7月には1億円にまで増額されました。これらの増額は正当な理由もなく、取締役会の決議もない独断的なものでした。 当時の経理部長であり、現代表取締役の下岡寛氏はこの支払いに強く反対。しかし、前社長はこれを無視し、経理部長に対して別の従業員に振込操作を教えるよう指示しました。最終的に、報酬1億円(実際に振り込まれたのは1億円から所得税等を控除した金額)を支払わせたのです。 (2)勝手に12億円を送金 24年8月、前社長は子会社売却で得た資金のうち12億円を取締役会の承認を得ることなく、会社の口座から移動。そのうち2億円を自身の個人口座へ送金しました。 この送金には銀行印と通帳が必要でしたが、これらは経理部長が厳重に保管していたため、前社長は銀行に対し「紛失した」と虚偽の申し出を行い、新たに銀行印と通帳を作成。その上で、従業員や子会社役員を巻き込み、不正送金を実行しました。 この過程で子会社役員が不正を察知し、時間稼ぎを目的として「銀行印の作成には、4~5日かかる」(通常は2時間)と虚偽の報告を行いましたが、前社長の激昂を招き、時間稼ぎは失敗に終わりました。 不正に送金された12億円のうち大半は回収されたものの、約1.2億円は依然として前社長の口座に残っており、返還されていないといいます。 (3)経費使い放題 多額の経費を使い込んでいたことも指摘されました。前社長の出張経費の申請額は、24年3月期に1億8900万円、25年3月期(24年6月までの時点)には2500万円に上ったといいます。また、接待交際費ではその大半が飲食店やクラブでの利用に充てられていました。 調査により、業務関連性のない個人的な経費が含まれていたほか、1件当たり300万円超の経費支出については取締役会での決議が必要というルールがあったにもかかわらず、これを行わずに計3000万円超を接待交際費に計上していたことも明らかになりました。 これに加えて、取締役会議事録の不備を監査法人に指摘され、事後的に議事録を作成するという不正行為も発覚しました。