気に入らない裁判官の”再任拒否”は人事局の思いのまま…裁判所制度の諸改革を「悪用」する当局の実態
「裁判官」という言葉からどんなイメージを思い浮かべるだろうか? ごく普通の市民であれば、少し冷たいけれども公正、中立、誠実で、優秀な人々を想起し、またそのような裁判官によって行われる裁判についても、信頼できると考えているのではないだろうか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 残念ながら、日本の裁判官、少なくともその多数派はそのような人々ではない。彼らの関心は、端的にいえば「事件処理」に尽きている。とにかく、早く、そつなく、事件を「処理」しさえすればそれでよい。庶民のどうでもいいような紛争などは淡々と処理するに越したことはなく、多少の冤罪事件など特に気にしない。それよりも権力や政治家、大企業等の意向に沿った秩序維持、社会防衛のほうが大切なのだ。 裁判官を33年間務め、多数の著書をもつ大学教授として法学の権威でもある瀬木氏が初めて社会に衝撃を与えた名著『絶望の裁判所』 (講談社現代新書)から、「民を愚かに保ち続け、支配し続ける」ことに固執する日本の裁判所の恐ろしい実態をお届けしていこう。 『絶望の裁判所』 連載第31回 『「自分が出世競争の奴隷であることが理解できていない」…日本と海外の裁判官を見比べると分かる「裁判官出世システム」の問題』より続く
裁判所による制度の悪用
2000年代に行われた司法制度改革による裁判所制度の諸改革については、私も、第21回で述べたとおり、一定程度期待していた部分があるのだが、それらが実施されてしばらくすると、期待はことごとく裏切られ、改革に期待したのは判断が甘かったことが判明した。 むしろ、裁判所当局は、それらの改革を無効化するのみならず、逆手に取り、悪用し始めた。その1つが、新任判事補の任用と10年ごとに行われる裁判官の再任の審査を行う下級裁判所裁判官指名諮問委員会の制度である。その表向きの趣旨は、これらの手続を透明化し、国民の意思を反映させることにあった。 しかし、この委員会のメンバーには現職の高位裁判官や検察官が多数含まれており、また、その情報収集方法は、裁判官の評価権者である地家裁所長や高裁長官の非公開報告書(「再任〔判事任命〕希望者に関する報告書」。なお、これは、毎年定期的に作成され、裁判官の申出があれば開示される後記の「評価書面」とは異なる)が中心であって、みずから調査を行う方法、手段は限られていると思われる。 また、再任不適格と判断された裁判官に対するいわゆる告知、聴聞の機会も、不服申立ての制度もなく、このことには大きな疑問を感じる。さらに、判断基準は非常に抽象的であり、審議の内容も公開されない。「指名の適否について慎重な判断を要する者」すなわち重点審議者を委員会が選択するための主な情報は前記の非公開報告書であるから、事務総局人事局は、評価権者に微妙なサインを送りさえすれば(電話1本で簡単にできることである)、みずから手を汚すことなく、特定の裁判官の再任を事実上拒否することが可能になるのである。 日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年。元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行され、たちまち増刷されました。 「同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」「なぜ、日本の政治と制度は、こんなにもひどいままなのか?」「なぜ、日本は、長期の停滞と混迷から抜け出せないのか?」 これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。