「栗山英樹の哲学」から「会う」より「読書」の意味を考える
発売して3か月、栗山英樹の大著『監督の財産』は評判を呼び続けている。848ページと圧倒的なボリュームで綴られた「監督としての集大成」。 【写真】「分厚っ!!」……反響を呼ぶ栗山英樹の新しい1冊 その特徴は監督1年目から現在に至るまでの、「当時のリアルな言葉」がすべて記されていることだ。例えば「育成論」について、監督1年目と2年目は違うけれど、1年目と8年目が同じ――といった思考の過程がはっきりと読み取れる稀有な一冊なのである。 そんな一冊は「野球人」以外にも大きな示唆を与える。 『監督の財産』にある「当時のリアルな言葉」を聞き続けてきた放送作家の伊藤滋之氏に、栗山の言葉・哲学から読み解く人生へのヒントを記してもらった。 世の中に起きていることは誰かが必ず経験している 「世の中に起きていることは、過去に誰かが必ず経験している」 「ビジネスの原理原則は、古今東西変わらない」 ユニクロを展開する株式会社ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が、『報道ステーション』のインタビューで語っていた言葉だ。 ビジネスで成功した人物の自伝を読み、偉大な創業者がどういう考えでそうしたのかを追体験し、自分を重ね合わせて考えを巡らせる。長年変わらぬルーティンだという。 番組を観ていて、ふと栗山英樹(北海道日本ハムファイターズCBO)のことが頭に浮かんだ。 大学時代、バッテリーを組んでいた同級生(当時、栗山はピッチャー)の影響でよく本を読むようになり、現役引退後はキャスターの勉強にとそれは欠かせない習慣になった。 そして、50歳で監督に就任すると、まるで生きるために必要な栄養を摂取するかの如く、貪るようにページをめくり、文字を追うようになる。 監督業に必要な学びを得るには、それが最良の方法だという確信があったのだろう。柳井の言う「古今東西変わることのない原理原則」を書物に求めたのだ。 朝晩問わず読書に没頭し、それが著者との会話の相槌であるかのように付箋を貼っていく。手元には、こんなに付箋だらけだと、もはや付箋が意味をなさないのではないかと苦笑してしまうような状態の本も少なくない。 近著『監督の財産』のおわりには、こう記されている。 はじめて「監督」という肩書きをいただいた当時、私は監督の初心者だった。 自分に限ったことではない。監督を名乗る誰もが、最初は初心者なのだ。 そして残念なことに、そのいろはの「い」を学ぶ手引き書はどこにも見当たらず、私の場合、それまで取材者として多くの監督に話を聞く機会があったにも関わらず、それを自分事に置き換えることがいかに困難な作業か、嫌というほど思い知らされることになった。 それでも、どうにか路頭に迷うことなく歩を進めることができたのは、繰り返し触れてきたように、先人の方々が活字として遺してくださった言葉に、標なき道を照らしていただいたことが何より大きかったと思う。 「活字」という言葉が「字を活かす」と書くように、まさしく「文字に活かされた」監督生活だった。 (『監督の財産』「おわりに」より) 必然、栗山は歴史書、歴史小説も好んで読んできた。 そして、「歴史はデータである」と思うまでに至る。