学校統廃合を促す?「文科省手引」の本当の評価
文部科学省が学校統廃合についての基準を約60年ぶりに改めた「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」(1月27日正式策定)が話題を集めました。20日付の新聞などでは「統廃合検討促す」「課題認識も5割が“放置”」などと、進まない統廃合をさらに促したものという点を強調した報道が大勢でした。しかし、教育界の受け止め方は少し違うようです。 【図表】公立学校の教員増を検討 少子化なのに先生は足りないの?
「統廃合求めてない」教育界はむしろ評価
「地方にはうれしいことだ」「目配りが利いている」――。1月19日の中央教育審議会初等中等教育分科会では、示された手引案に対して委員から口々に評価する意見が述べられていました。校長会代表の委員からは「統廃合が次の統廃合を生むという『負の連鎖』は切ってほしい」という声さえありました。むしろ、さらなる統廃合の促進を求めたものではない、というのが、教育界の一般的な受け止め方のようです。 学校の規模については、1956年の中教審答申を踏まえて57年に「学校統合の手引」が作成され、58年には法令改正で小・中学校とも1校当たり12~18学級(小学校は1学年2~3学級、中学校は同4~6学級)が「標準」とされました。以来60年近く、地方交付税の算定基礎となるなど定着してきました。 しかし、少子化が顕著になった90年代以来、「標準」と実態はかけ離れていきます。まず都市部で学年1~2学級の維持に支障をきたす学校の問題が深刻になり、各地で統廃合が進みました。その後も地方、都市部を問わず統廃合が課題となり、文科省の調査(2013年度)によると、この10年に限っても1割に当たる3000校余りが統合されました。それでも標準規模を下回る割合が小学校で46%、中学校で51%と、いずれも半数前後を占めています。
極端な小規模化が課題になっていた
一方で、地方からは「学校がなくなって、地域が廃れた」という声も聞かれます。学校が廃校になれば、子どもを持つ世帯が転出する十分な動機になり、人口減が進みます。子どもの元気な声が聞こえなくなって雰囲気が沈んだ、運動会などに集まる機会がなくなった、など精神的なマイナス面も大きいといいます。 しかし学校は、単に個人に勉強を教えるだけでなく「集団の中で、多様な考えに触れ、認め合い、協力し合い、切磋琢磨(せっさたくま)することを通じて」(手引)学ぶ場です。とりわけ近年では思考力や判断力、問題解決能力の育成が求められており、一定の規模を確保することがますます不可欠になっています。そうした点から、極端な小規模校化は教育関係者の間でも課題になっていました。地域の核である学校の維持と、教育効果。両者のバランスを取ろうと苦慮してきたのが、多くの自治体の実態だといえます。 手引では確かに、学年1学級が維持できず複式学級が存在する規模(小学校1~5学級、中学校1~2学級)や、クラス替えができない規模(小学校6学級、中学校3学級)の学校には「学校統合等により適正規模に近づけることの適否を速やかに検討する必要がある」としていますが、同時に「地理的条件等により統合困難な事情がある場合」は、地域との連携を進めるとともにICT(情報通信技術)、小中一貫教育を導入するなどにより、小規模校のメリットを最大限生かし、デメリットの解消策や緩和策を検討するよう求めており、必ずしも機械的な統廃合を提言したものではありません。