掲げた合言葉は「福井のサッカーを変える」!17年ぶりの選手権を戦う福井商が披露したプレミア王者に敢然と立ち向かう覚悟
[12.29 選手権1回戦 福井商高 0-4 大津高 柏の葉] 「もうこの景色を見せてもらったことが本当に嬉しいですし、本当に感謝しています。ただ、嬉しいだけで終わってしまってはいけないと思っているので、今日の負けをちゃんと次に繋げられるようにしたいですし、このままでは福井県もまだまだ変わらないので、次に戦う時はもう少し自分たちのサッカーで勝負できるチームを作っていきたいと思います」(福井商高・高木謙治監督) 【写真】「美しすぎ」「めっちゃ可愛い」柴崎岳の妻・真野恵里菜さんがプライベートショット披露 福井商高(福井)は覚悟を決めていた。17年ぶりとなる全国の晴れ舞台。初戦で対峙するのは圧倒的な得点力で、高校年代最高峰のプレミアリーグを制した大津高(熊本)。普段はポゼッションをベースに攻撃的なスタイルを貫いてきたが、相手を徹底的に分析してきた中で、この日は割り切った戦い方を選択する。 「フォーメーションとしては『4-5-1』みたいな感じで、サイドハーフが下がったり、出ていったりというところで、6枚になる時もありますし、4枚の時も5枚の時もあるしと、状況に応じて変えていくイメージでやっていました」と明かすのはキャプテンを務めるDF谷田月波輝(3年)。相手の強力なサイド攻撃を考慮し、まずは後方のスペースを完全に埋めに掛かる。 「基本的には『6枚になっちゃダメだよ』と。本当に危ない時は6枚になってもいいけど、最初からずっと6枚だと本当に防戦一方になるからと。でも、あの子たちも試合をやりながら大津さんの強さを本当に感じて、たぶん『これじゃないと守れない』と判断したので、ほとんど6枚の状態でしたね」と高木監督。右から谷田、DF玉森舜琉(3年)、MF森川太陽(2年)、DF木戸口将大(2年)が並んだ4バックに加え、右のMF谷口櫂我(3年)が、左のMF松田琉音(2年)とサイドハーフも最終ラインに吸収され、『6-3-1』に近い形の時間が長くなっていく。 ただ、選手たちは少しずつこのスタイルに手応えを感じつつあったという。「自分たちの感覚的に、ちょっと相手を過大評価し過ぎていたというか、前半の入りで『思ったよりもやれるぞ』『思ったよりも守れるぞ』というのは感じましたね」(谷田)。ディフェンスラインの網を抜けてきたボールは、GK福本竜矢(3年)が確実に対応。守備の好リズムは確実に醸成されていった。 それでも、やはりプレミア王者は強い。ハーフタイムが見えてきた前半36分。左サイドから上げられたクロスに、高い打点のヘディングを叩き込まれ、失点。1点のビハインドを背負う格好で、最初の40分間は終了する。 迎えたハーフタイム。チームには「オレたちもやれる」という雰囲気が湧き上がっていた。「理想は0-0だったんですけど、1失点ならまだということで、子どもらもまったく諦めていませんでしたし、ハーフタイムの雰囲気も悪くなくて、しっかり粘り強く守って、ワンチャンスを決めに行くというところは、みんなで決意して臨みました」(高木監督)。選手たちは堂々と後半のピッチへ飛び出していく。 攻撃の狙いも明確だった。スピードのあるFW平田海成(3年)がプレスのスイッチを入れたタイミングで、トレスボランチ気味に並んだMF杉田友輔(3年)、MF坪田太陽(3年)、MF高木那由多(2年)の3枚も連動して前からハメに行くイメージを共有。とはいえ、どうしても相手の強烈なアタックを浴び続け、後ろに重心が掛かってしまい、人数を掛け切るまでには至らない。 後半21分に2失点目を、30分に3失点目を献上。攻めるしかなくなった福井商の選手たちは、ピッチの中で自主的に考え、前の人数を増やす決断を下す。その姿を見た指揮官は、彼らの成長を強く感じたそうだ。 「最後に点数を獲りにいかないといけない時に、もう後ろを5枚にしたりと、自分たちで判断してしっかりやってくれていたのを見て、以前は言われるがままにやっていた子たちが、自分で考えて、自分から動き出すようになってくれたというのが、本当に一番成長したなと思います」 終盤にはもう1点を追加され、ファイナルスコアは0-4。「何とか凌いで、後半ワンチャンスを決めに行くというところは、みんなで決意して臨んだんですけど、大津さんの方が一枚も二枚も上手でした」(高木監督)。17年ぶりとなる福井商の全国挑戦は、80分間で幕を閉じることとなった。 「本当は今まで1年間やってきたサッカーで戦わせてあげたかったんですけど、私がこの戦い方を選んで、子どもたちもそれに納得してくれて、この1か月は本当に練習にも一生懸命取り組んでくれたので、彼らには本当に感謝しています」。試合後の取材エリアに現れた高木監督は、少しだけ目を赤くしてこう語る。 「もちろん1年間やってきた攻撃的なサッカーをしたいという気持ちも、たぶんみんなの中にあったんですけど、それでは日本一のチームに勝てないというのが福井県の高校の現状ですし、こういうサッカーをしても負けてしまうということを考えると、自分たちのやり方で全国でも通用するようなサッカーができないといけないと思うので、来年からはさらにレベルを上げて、全国でも勝てるチームになってほしいなと思います」。キャプテンの谷田は現状を冷静に見極めつつ、後輩たちへの期待を口にする。 ただ、優勝候補筆頭とも目されている大津との対戦が決まり、彼らを真剣に倒そうとトレーニングと向き合ってきたこの1か月を超える日々は、間違いなく福井商を一回りも、二回りも、大きく進化させてくれたという。 「個人的にも全国大会自体が初めてだったので、メッチャ楽しみでしたし、大津がプレミアファイナルで優勝したので、日本一のチームと試合ができるということで、もうチーム全体として勢いも出てきましたし、『やるぞ』という気持ちも大会が近づくにつれて、みんなの中で大きくなっていったかなと思います」(谷田) 「3年生はかなり伸びました。今までかなり攻撃をメインに練習してきたこともあるんですけど、『ここまで粘り強く守れるか』と思うところも今日はありましたし、今までのように新チームとして1、2年生だけで過ごす1か月よりも、本当に何倍も、何十倍も価値がある期間でしたね。そのうえ、試合をできるのが大津高校さんという素晴らしい相手だったので、もう本当にあの子らの成長を見ているだけで嬉しくなりましたし、来年にも凄く繋がってくるのかなと思います」(高木監督) 久々に全国へと続く扉をこじ開け、実際にピッチに立ったからこそ、感じたこともある。谷田が熱く語った言葉が印象深い。「この1年間チャレンジしてきた形で県で優勝できたことは、福井商業にとって大きな一歩だと思います。でも、やっぱり全国でまだ1回も勝てていないのが現状なので、まずはここから2年連続、3年連続と全国に行けるぐらい強くなってほしいですし、福井商業の名前が全国にも広まって、『福井と言えば福井商業』となっていくのが、自分の思い描いている理想の未来です」。 そう言い切ったキャプテンは、最後に笑顔でこんな言葉を残して、スタジアムを後にした。「選手権、メッチャ楽しかったです。もう来年も自分がやりたいぐらいで(笑)、1、2年生は本当にうらやましいなと思いました、本当に1回じゃ足りないぐらいの楽しさと良い経験だったので、1,2年生にはこの経験を生かして、さらに頑張ってほしいです」。 『福井のサッカーを変える』を合言葉に、プレミア王者へ敢然と立ち向かったブルーの戦士たち。福井商の覚悟と挑戦に大きな拍手を。 (取材・文 土屋雅史)