裏金問題立件見送…「力を持たない民が大きな変化を」元テレビ東京Pが『ジャンヌの裁き』に込めた思い
検事にとって「検察審査会」とは…
ところで、情報が公表されていない「検察審査会」をどのように取材したのか。 「今回の法律監修をやってくださっている弁護士の先生は、弁護士事務所に研修に来ている検事なんです。検事側と弁護士側の両方を知るという意味で、検事が弁護士事務所で研修するそうで。 だから、検事と弁護士、双方の実情がわかるんですね。 それに、いざ始めてみると、出演者の知り合いなどで『昔、検察審査会をやってた』なんて人がポコポコ出てきて、『今度、検察審査会のドラマをやるんですね』と嬉しそうに言われたりしました。 裁判員制度とかだと、深刻な死刑判決とか、もっと大きい事件を扱うものもありますが、それに比べると、検察審査会って、正直、地味なんです。だから、監督も『ちょっと地味で、忘れ去られた感じの設定にしよう』ということで、ああいった部屋にしているんですね」 ちなみに、一般にあまり知られていなかった「検察審査会」だが、検事にとってはもともと大きな存在感を示すものらしい。 「検事は、基本的に絶対権力の人たちだから、起訴してナンボなんですね。 それなのに、自分が不起訴にしたものを起訴にされてしまうと、それは自分のペナルティになる。検事というのは、どれだけ失点を出さないかで出世が決まるらしいんですよ。 だから、失点がついてしまうのを恐れるという理由で、検察審査会は怖いらしいんです」 ◆ドラマ『ジャンヌの裁き』に込めた思い 最後に、田淵教授は『ジャンヌの裁き』に込めた思いについてこう語ってくれた。 「このドラマを通して伝えたいのは、『小さなオピニオンが世界を変える』ということです。 これまでは、『大きなパワーが世界を変える』というものでしたが、『ブラック・ライヴズ・マター』運動や『#MeTooムーブメント』のように、弱者や力を持たない民が大きな変化を起こしているのは枚挙に暇がありません。 これらの共通点は、『ネットの進化』です。いま日本では様々な企業の隠ぺいが明らかにされ、コンプライアンスが問われています。 これはコンプライアンス意識が低下しているからだとも言われていますが、私はそうではないと考えています。 かつては権力者は強大な発言力や影響力を誇っていました。それゆえ隠され闇に葬られてきた不祥事も、多くの『市井の無名な人たち』によって告発されることで表面化されるようになってきたというのが正しいのではないかと感じています。 そしてそんな社会構造の変化を象徴しているのが、今回のドラマ『ジャンヌの裁き』である。そう考えています」 田淵俊彦 桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。’64年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100ヵ国以上。一方、社会派ドキュメンタリーの制作も意欲的に行い、「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」などの難題にも挑む。ドラマのプロデュース作品も数多い。’23年3月にテレビ東京を退社。著書に『混沌時代の新・テレビ論』『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える〝テレ東流〟逆転発想の秘密』『発達障害と少年犯罪』『ストーカー加害者 私から、逃げてください』『秘境に学ぶ幸せのかたち』など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。 取材・文:田幸和歌子 1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKi Kids おわりなき道』『Hey! Say! JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。
FRIDAYデジタル